ジャッカル21
開け放たれた窓からは、ベランダのブロンズの手摺りを透かして、群青色に滲んだ黒海が見える。どれだけのチョウザメがいてくれるのだろう。近年は養殖になってしまったが、キャビアはキャビアだ。
部屋の両隅には、大スクリーンが垂れていて、右側にアメリカ大統領、左側にイギリス首相の顔が映っている。プーチン自身の顔は部屋中央に設置されたカメラが撮影して、英米の大統領に送っているはずだった。プーチンの側近六名は、画面に映らないように、席から離れて待機していた。英露同時通訳はスクリーン下のスピーカーから流れてくる。画像に字幕も出る。
二十一世紀のヤルタ会談を催そうと提唱したのはプーチンだった。とんだ三酔経人問答に堕す恐れもあったが、三人の本音をさらす、あるいはさらすまねをする機会をなるべく多くつくることが、グローバリズムの分け前をいただくひとつの手段だと、プーチンは思っていた。
まず話は経済問題から始まった。
英首相はEUとアメリカの経済協力促進の役目を受け持つことを受け入れた。特に米仏の間の取り持ちを、ブッシュは強く要請した。ブッシュはフランス人が苦手だ。馬鹿扱いされるからだ。その代わり、アメリカは、EUでの英国の地位向上に努力すること、ユーロとドルの1対1為替交換に向けて努力することを約束した。将来ユーロとドルが決済貨幣として半々ずつになるように努力しあうことも米英は納得しあった。円排撃については三者とも同意見だった。
今後の見通しについては、次の様な構想が三者共同でつくり上げられた。
日本はデノミや棄捐令を実行して経済を立て直した後に、中国元に擦り寄っていくだろう。中国、台湾、統一朝鮮、日本による東アジア経済同盟が成立し、元と円が1対1の交換レートとなって、ユーロとドルの関係とパラレルになるだろう。アセアンがこの同盟になだれ込んでくるのは、東ヨーロッパがEUになだれ込んだのと同様の結果を残すはずだ。



