ジャッカル21
中国は分裂する。内陸部の共和国はロシアに依存するようになり、やがて吸収される。沿岸共和国は、かつての日本のように欧米化し、資本主義化し、高度成長を遂げ、西側に参入するはずだ。共産党は北京周辺の頑迷弱小国家の主催者に過ぎなくなる。つまりレッドチャイナは北朝鮮化する。そして自壊する。共産党幹部の大部分は、北京を蝉の抜け殻にして、沿岸共和国と和睦する。ただし、経済的に東のGDPが西の半分に満たない時点で、米国が経済恐慌を引き起こす。半ば計画的な恐慌なので、国内の金融と産業の再編は、短期間で実現する。日本と中国が、この恐慌の影響で衰退する。特に中国に食糧危機が生じ、難民や餓死者が出る。結局は西が、東の、都合のよいところだけを飲み込み、一枚岩の世界経済体制が、この世紀中に成立する。米軍による中東制圧を経て、アメリカ、EU、ロシアが、あらゆる種類のエネルギー資源を独占する。
次に支配形態が話題になった。
EUに権威を、アメリカに権力を、が米英の基本的な姿勢だった。
貧しいロシアが、今のところは権威と権力に仕える執事であっても仕方があるまい、とプーチンは諦めていた。やがて再びチンギスハーンが出現するまでの我慢だ。
「権威のシンボルは白人王朝だ、マーガレットやチャールズやダイアナがなにをしようとね」
笑いながらブレアが同意を求めた。ブレアは続けた。
「イギリス王朝を中心にした、EU内の諸国が戴く王朝が、唯一の王朝であるべきだ。王族らは数世紀前にヨーロッパ内で一つの血族を形成していた。彼らこそEUの先駆じゃないか。世界でただひとつの統一王朝なんだ。ヨーロッパ文明の象徴だぞ。彼らがあってこそブルジョア世界がありえたんだ。彼らとブルジョワの戦いなんて一時的なものだった。すぐさま相手の様子を見て手を握ったじゃないか。ソ連東欧の崩壊と天安門事件から逆算してフランス革命が間違いだったことがなぜ分からないのか。王朝の安定が貨幣の信用を支え、ブルジョア社会を支えている。なぜこんな簡単な論理が分からないのか。重商主義に戻るのが万人の幸福のためになるのだ」
プーチンは野次る
「そんな発言を選挙民に聞かれたら、プルータス、お前もか、とののしられるぞ。左翼の糞ったれおやじに洗脳されたガキだったくせに。ブッシュ君より右翼だな」
ブッシュは、うれしそうに叫んで、バーボンを口に含んだ。



