ジャッカル21
ジャッカルは、カヌーでこちらの眼を欺いているうちに転覆し、武器を落としてしまったというのか? では殺害計画は中止か? そうではない。本気で探すつもりなら、まだそこらでうろうろしているはずだ。探さないで残していったのは、他にも持っているからだ。現に複数の目撃者が、ラケットの柄のようなものが二、三本リュックから突き出ていたと証言している。すべての銃を川でおとしたわけではないだろう。ジャッカルが、何丁の銃を持ち、何発弾をもっているかは分からない。いざという場合に備えて、拳銃や手榴弾や爆弾も持っていると想定するのが自然だ。しかし袋田は、ジャッカルがあくまで一発必殺を狙っているような気がしてきた。銃が単発式であると知ったからだ。ジャッカルのこだわりが察しられた。それにしてもなんという凝った銃だろうか。長時間かけて手作りで職人が製作したものだろう。日本では作れる者はいないだろう。ジャッカルは持ち込まざるを得なかったのだ。分解組み立て型ではないのはなぜか。組み立てるための、安全で人に見られない時間がとれないことを予想しているからだ。サイレンサーが付いていないことは何を意味するか。撃つ自分が見つかってもかまわないということだ。最初から姿をみせたまま攻撃する可能性さえある。高性能の銃で、一発必殺、駆け抜けるようにして襲撃するジャッカルの姿が酔った頭に浮かび上がった。邪魔者は容赦なく消していくだろう。今までジャッカルは死体を隠していない。多くの人に姿をみせている。駆け抜けようとしている者には、そんなことはどうでもいいのだ。袋田は、今にもジャッカルの襲撃が始まりそうに感じて身震いした。
ところで、どこを、駆け抜けようとしているのだろうか?
ジャッカルは昨晩どこでどう過ごしたのか。まさかまた女を殺してやいまいな。
袋田はいても立ってもいられない気持ちになってきた。総監から、今日は休め、顔見ていたくないから、と言われたが、こうしてはいられない。
「コイビトカラ デンワ ダッタノカ?」
「余計なお世話だ」