ジャッカル21
「コンニチワ。ココ、イイデスカ?」
うなずきながら隣を見ると、頬をピンクに塗りたくった白人女が微笑んでいた。随分若そうだった。
「ウォッカ、ノンデモ イイデスカ?」
「一杯だけならな」
「ウレシイ。イーッパイ ノムカ」
白人女はバーテンに合図した。バーテンは袋田をうさんくさそうに見た。袋田は、ぼられるかな、とバーテンの犯罪者ヅラをうかがった。いざとなりゃあ、警手でも拳銃でも見せてやる、などとやけっぱちな独り言をつぶやいて、我ながら、酔いの深さに恐れをなした。
そのとき携帯が鳴った。受け答えに自信がなくなっていたが、とにかく出た。
「もしもし、私、飯田市警署長の丹沢と申します。警視庁の袋田警部殿ですね。興味深い内容なので直接に連絡させていただきました。実はですね、キャンプ中の地元の若者たちが、裏返しになって破損している小型カヌーを、当市の上郷付近で本日午前九時過ぎに見つけ、河川敷から携帯で連絡してきました。それは十日夜に諏訪で盗まれた塗装中のカヌーでした。漕ぎ手が事故を起こしたようです。溺死している可能性がありますので、署のボートだけでなく、川下り観光用のボートもチャーターして捜索しました。下流の市町村にも捜索してもらいました。すると溺死体は今のところ見つかっていませんが、川底から、真空パックされた銃が見つかりました。急いで署に持ち帰り、検査いたしました。製造地は不明。型式番号なし。特殊合金製の軽量小銃です。ロシア製ドラグリフ狙撃銃の改良型と思われます。全長1125ミリメートル。銃身520ミリメートル。分解組み立て型ではなく、徹底した一体型で、銃身から銃床まで継ぎ目がありません。望遠照準器だけがスライド式で装填されていました。サイレンサーは付いていませんし、そもそも付けるためのねじ山が切ってありません。連射連発式ではなく単発式です。すでに弾込めしてありました。象をも倒す爆裂弾です。口径が10・12ミリと、対物ライフルに近い大きさで、試射した者は、片膝を立てた状態から、後ろにひっくり返ってしまいましたよ。有効射程距離が1500メートル程もありました」
袋田は酔った頭を振って、なんとかしゃきっとしようと努めた。