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ジャッカル21

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お母さんはちょっとだけ笑う。こちらを振り返りもしない。
「富士山噴火の予測って近頃は聞かないわねえ。前は怪しげなのが時々週刊誌に出てたけど。よく見てみなさい。雲でしょ。焚き火か火事もありうるかな」
郁ちゃんは再びヘッドフォーンをつけると、どんどん降下してみた。
煙ではなく砂塵のようだった。さらに高度五千メートルまで降りた。四角い箱型のものが見えた。ジグザグに動いている。しばらく追って追跡機能をオンにした。さらに接近した。
道などない山腹に、岩をよけながら、紫色の四輪駆動車が、猛烈なスピードで走っていた……

七月十三日午後二時二十分、東京

大岡山の東京工大工学部の深水研究室は、芝生に囲まれたこじんまりとした二階建である。オフィスと会議室は二階にあり、一階はいわば工場だ。電気自動車の開発を目的にしている。現在二台が完成しており、テスト済みだった。八輪駆動のタイヤ内蔵式エンジンを搭載している。最高時速は415キロ。重量八トン。鋼鉄製だ。工場には、助手、院生が常時四、五名いて、調整とテストを繰り返していた。ただし、二時からは二階の会議室で深水教授じきじきのセミナーが開催されるので、助手と院生をひとりずつ残して他のものは二階に行ってしまう。
ジャッカルは芝生に坐ってその時機を見計らっていた。
ジャッカルは前日の朝、天竜川に沿って走る国道に平行して、赤松とヒノキの林の中を歩いていった。やがてそば・うどんと大書した看板を見つけた。広い駐車場を備えた食堂が道路際にあった。ジャッカルは太いヒノキに寄りかかって待った。じっとしていると蚊がたくさん寄ってきた。駐車場には、三台の乗用車以外に、トラックが一台停まっていたが、それはジャッカルの目的にはそぐわなかった。やがてもう一台トラックが駐車場に入ってきた。ジャッカルは、車体に書かれた日本製紙という文字を確かめた。運転手が食堂に入ると、ジャッカルはトラックに近づき、後部からよじ登った。まだ梅雨が明けてないので、材木を満載した荷台には幌がかけてあった。ジャッカルは最上部に腹ばいになった。
トラックが静岡県の富士市内に入ったところで、ジャッカルはトラックから抜け出した。赤信号で停まったときだった。警官にだけは注意した。一般人に見られても平気だった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦