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ジャッカル21

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「その向こうは日本海じゃないか。ははあ、ロシアか。随分と寒い国なんだろうね。ここも冬は随分寒いけどさ。トナカイはいないやなあ。雪は一メートル近く積もるときもあるんよ。そのころは、あんたの故郷は、氷の国になるんでしょうね」
「それほどではない」
「トナカイに、橇を引かせて移動するんでしょ。サンタクロースが出てきそうだね」
「私の故郷にもサンタクロースの伝説はある。川に張った氷の上を橇に乗ってやってくる。赤い服を着たおじいさんではなくて、猟師の服装をした若者だ」
「なーんだ、つまんないの。そのサンタ、人気なさそうだね。あんたの故郷、年中雪と氷に閉ざされてるってわけでもないよね」
「夏の間は、雪や氷が融けて、湿った黒い土が出てくる。ひまわりが咲く」
八重子は、実家の玄関の傍らに立つ二メートルほどもあるひまわりを思い描いた。図書館の玄関前にも、丈は低いが、二十本ほどのひまわりが今満開に咲き乱れていた。
「あっらー。私、ひまわり、大好きなの。川っぺり歩いてるとね、時々ひまわりが咲いてんのよ。私ね、それをほじくって引っこ抜いて持ってきちゃうことがよくあるわ。実家にも仕事場にも、私が植えたひまわりがいっぱい咲いてるわよ。もっとも、実家のは、母ちゃんが水やってるけどね」
「父親は農夫か?」
「……私が小学生のときに死んじゃった。ねえ、あんた、名前はなんていうの?」
「岩の角に何度も頭をぶつけて、記憶喪失になってね」
「何言ってんの、ふざけちゃって。わたしは八重子です、名無しさん。あんた、さっきと比べると、随分元気になってきたじゃない。もう家に帰んなさいよ。病院は行かなくてもだいじょうぶそうだわ。あ、そうか、家はロシアか。あんた、今日どうすんの?」
「ここにいる」
「ここにいるってったって、そんなびしょぬれで、風邪ひくよ」
「着替えは持っている。ここからは動かないが、ここに私がいることを他人に知られたくない。君には協力してもらう」
「ははあ、あんた、ワルモノなんだね。ロシアで強盗したとか、ロシアの刑務所から逃げてきたとか」
「なんと思ってくれてもいい」
「ああ、わかったよ。けど、命の恩人に対して、命令なんかして。何とかならないの、そのでかい態度」
「何ともならない」
「おいおい。じゃ、わたしは帰るからね」
「ぜひ、ここに、いてほしい」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦