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ジャッカル21

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男はうっすらと目をあけた。それを見て八重子はびっくりした。右目が黒くて、左目が青かった。カラーコンタクトが片方だけ外れたのだと気がついた。髪の毛にも金髪が混じっていた。外人なのだろうか。それにしては、緊急時にもちゃんと日本語をしゃべっている。
「行かないでくれ、お願いだ」
その男は再びつぶやいた。八重子はしゃがみこんだ。
「わかったわよ。今すぐには行かないわ。だけど、あんた、震えてるよ。いくら七月でも、このまま体温が下がりっぱなしだと、危ないなあ。たき火を焚いてあげるから待ってな」
八重子は、ゴミ袋の中から燃えそうな紙類を取り出した。流木や枯れ枝を集めた。男が倒れている岩のそばの、一段高い岩の上にそれらを持っていって、ライターで火をつけた。生ゴミや紙類を野外で焼却する場合があるので、ライターはいつも持っているし、火をつけるのも巧みだった。
「あんた、起きれる? 火にあたりな」
男は上半身を起こした。随分大柄な男だった。やや慌て気味に胸のボタンをはずすと、リュックを腹にまわした。
「一丁落としてしまった」
男はつぶやくと立ち上がろうとした。ゆらりと上半身が揺れて川に落ちそうになった。
「何を落としたのよ。青年団や消防に頼んで探してあげるからあ。動かないで」
男は、それを無視して、四つんばいになると、焚き火のそばに這って来た。胡坐をかくと、火に顔を近づけながら言った。
「ここにいてくれ」
八重子はそれには答えない。いつごろ帰るべきか、思案の最中だったからだ。
男の顔をあらためて観察した。男は純粋の白人ではないようだった。日本人とのハーフらしい。そう思うとなんだか見たような顔に思えてきた。よく見る日本人タレントと外人とのハーフなのかもしれない。俄然好奇心が沸いてきた。男は思い出したように両手を挙げて右目のコンタクトをはずした。川に投げようとした。
「あーっ、だめだめ、ゴミはこちら」
八重子は膝をついて右手を伸ばしてコンタクトをとりあげた。すばやく胸ポケットに収めた。男は不満げな表情を浮かべながら、両手を焚き火にかかげた。八重子は男の傍らに座っていた。男の横顔が、落ちようとする夕日を反射して、美しかった。
「あんた、どこから来たの?」
男は天竜川の上流を指差した。
「岡谷か松本?」
「もっと向こうだと思う」
「新潟かあ」
「どうかな」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦