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ジャッカル21

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「うん、だが、モンタージュと監視カメラのぼやけた写真だからなあ」
「剥がして持ってく女の子なんかいない?」
「いなーい!」
袋田は憮然とした様子で、折りたたんだコピー用紙を内ポケットから取り出して、江刺に突き出した。出来上がったばかりの手配書だ。
「ああ、これね。モンタージュはヨンさまよりいい男だわぁ。写真は新潟のATMで撮ったやつか。タオルで鼻と口を隠してるからね。ハンサムらしくはあるけど、はっきりわかんないな。だけど、左利きだってことは、はっきりわかるわね」
「なに? どうしてだ?」
「右手でタオルを持って、左手で画面操作をしてるでしょう?」
「なぜ、それを早く言わんのだ! いつ気がついたんだ」
「最初にモニター見た時よ。袋田さん、知らなかったの?」
「君に言われて今気がついたんだ」
「外人は左利きが多いって聞いてるから、別に言わなくたってかまわないと思ってたのよ」
「ここは日本だ。やつは日本人に変装している。左利きは立派な特徴だ」
袋田は携帯を取り出すとどなった。
「ジャッカルは左利きだ!」

七月十一日、午後六時、長野
 
多田八重子は、飯田市立図書館の千代分館に勤めている。二十四歳になったばかりだ。きょうは月曜なので、図書館は休みだ。昼食をとってすぐに、スラックスに運動靴姿で、大きなビニールのゴミ袋が一〇個も入ったリュックを背負って出かけた。ボランティアで、天竜川の川筋の掃除をしている。軍手をして、空き缶やゴミを拾い集めて、ビニール袋に入れていく。川筋には一定の距離をおいてごみ収集所が点々と設置してある。そこにつめておくと、毎朝ゴミ収集車がやってきて持っていく。八重子はいつも飯田線の千代駅から電車に乗って伊那八幡で降りる。それから堤を降りて、川にそってゴミを拾いながら千代までもどってくる。十キロ近い道のりだ。ハイキングだと自分では思っている。同じ作業をしているものは多いが、八重子はいっしょに行動はしない。ひとりで風景を楽しみ、あれこれ物思いにふけりながら歩くのが好きだった。ときどき首にかけたラジカセでDJのおしゃべりと音楽を聴く。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦