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ジャッカル21

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岡林の額には、すでに汗が浮かび始めた。パトカーから出ると、梅雨の晴れ間の日光は、本格的な夏のものであるのがよくわかった。額の汗が、眉の間を通り、右の眼に垂れてきた。汗が沁みて痛かった。手でこするとますます痛がゆくなった。岡林はとうとう機嫌が悪くなって、心の中で毒づいた。くそっ、この暑いのに、わけのわからない事件の捜査に駆りだされちまって、頭の中まで暑くなる。容疑者であって、まだ犯人と確定していない外人が、これからなんかの犯罪を犯しそうだから捕まえろ、とは、もやもやした指令だ。
岡林だけでなく、現場の警官も、パトカーを降りて検問作業に加わったばかりの巡査たちも、暑さに辟易していた。
伊那公園でサッカーをやっている少年たちや、それを横目で見て散歩している人たちも暑そうだった。夏休みを待ちきれない子供たちが、公園脇で水遊びをしていた。伊那公園の噴水池には子供たちが入り込んでいた。素裸の子も混じっている。
大人だって負けてはいない。天竜川の中心に向かって、左右から何本も釣竿が突き出ていた。ゴムボートが二台三台と川面を滑っていく。川の中に一列に竹の柱を立てて、カヌーの練習をしている人たちもいる。地元の同好会の人たちだ。ジグザグにこぎ下っては、川原にカヌーを着けて、そのカヌーを抱えると、元の出発点まで歩いて戻っていく。
中には、もどらずにそのまま川を下って行く者もいる。
随分とスピードが出ている。頭上の道路を走る自動車と同じくらいの速さである。正確なピッチで力強くオールを漕いでいく。リュックを担いでいるのに、よく転覆しないものだ……

七月十一日、午後三時三十分、岐阜

袋田と江刺は、時速百キロで走るパトカーの後部座席に並んで坐っていた。パトカーは他の車を追い越すたびに、低くサイレンを鳴らした。
江刺は、警察日報に載っている、自分の虎退治の記事を、警察携帯で読んでいた。
「袋田さんの撃った弾はあたらなかったって、どこにも書いてないなあ」
「うるせえ」
「おお、こわっ」
乗っている車は岐阜県警所属のものだ。141号線を走っていた。安房トンネルを通って上高地の南を掠め、松本経由で諏訪に行く予定だった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦