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ジャッカル21

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午後一時過ぎごろから、観光客たちの苦情電話が、観光会社、バス会社、市や県や町の観光課等に、ぽつぽつとかかってきた。それらを受け付けたところから、警察に連絡がはいる場合もあった。直接警察に苦情電話をかけてくる者もあった。それらを総合すると、容疑者の足取りが明らかになった。容疑者は、立山のどてっぱらを貫くアルペンルートを走破したのだった。しかし警察が逃走経路を把握した段階で、すでに容疑者はとっくに大町を通過していた。
富山ナンバーのレンタカーが、諏訪市の湖岸美術館の駐車場に放置されていると、午後二時に通報があった。観光バスの発着の際に邪魔になるので、場内アナウンスをして移動するように頼んだが、所有者が出てこなかったので、美術館の職員が諏訪署に連絡したのだった。駐車場床面に描かれた標識を、運転手が認識できなかった疑いがあった。レンタカー会社の事務員の証言から、運転していた者は、富山県内で公開捜査中の容疑者である可能性が高まった。たちまち長野県南部一帯に非常警戒網が張られた。容疑者は、富山県に続いて、長野県でも公開捜査の対象となった。
車体の痛み具合は、はなはだしかった。排気用パイプがとれ、車の底面はぼこぼこだった。車体の腹には無数の傷が走り、野草や木の葉が張りついていた。
容疑者は東京に向かっているとの指示が、上から岡林警部補にあった。東京への主なルートは、中央自動車道あるいは153号線を南下して東名に抜けるコース、中央自動車道あるいは20号線を南東に辿って甲府に抜けるコースだった。それ以外にも八ヶ岳を回って佐久に下りるコース、諏訪神社の脇を通って南アルプスの山麓を南下するコースがある。そのような幹線以外についても、たとえ一方通行であれ、使われていない旧道であれ、検問せよ、との命令が出ていた。
岡林警部補は、国道153号線と361号線が交差する中央本線伊那北駅前にパトカーを止まらせた。検問は伊那公園を見下ろす153号線を、数個の赤の標識塔で遮断しておこなわれていた。岡林は外に出た。むっとする暑気に包まれた。ご苦労様です、と現場の警官たちに声をかけてから、さっそく検問記録に眼を通していった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦