小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジャッカル21

INDEX|8ページ/141ページ|

次のページ前のページ
 

「包囲されているぞ、ズヴェルコフ。おとなしく出て来い。ボクロフスキー夫人はつい今しがた逮捕拘留した!」
ズヴェルコフは逃げようがない状況を瞬時に理解した。震える手でキーボードを連打した。
(私の報告が真実であることは、ヒョードル・ラタジェーエフ外務省次官とアレクサンドル・ボクロフスキー外務省次官補およびその妻ワルワラの行動を調査なされば分かる。この情報に誠意ある価値判断を下されたく思う。報酬はいつものようにチューリッヒ……)
電灯が消えた。パソコンは自動的にバッテリー電源に切り替わった。ドアをたたく音が聞こえ、何人もの人間が手すりを越えてベランダに跳び下りる音が聞こえた。手すりに咬ませてあるパラボラアンテナがむしりとられた。ベランダ一面に銀紙を貼ってアンテナにしてあるが、それは楯や上着で覆われていく。病院のベッドで丸くなって眠りこけている母親の姿がズヴェルコフの目に浮かんだ。
なんだ、自分が先だったのか。
(いや、札幌医科大学付属病院のイワモトタケハル医師に直接送っていただきたい)
ドアの取っ手に軽機関銃が撃ちこまれた。轟音と、もうもうたる煙。それと同時に引き戸のガラス窓が割れて銃口が突き出た。ズヴェルコフは、あの男が直接言ったとワルワラが伝えた文句を打ち込んだ。そして動転のあまり次のような言葉を末尾に打ってしまった。
(警戒せよ、ジャッカルが来るぞ!)
送信。エラー。電話回線に入れない。無線に切り替える。ベランダでは、アキハバラで買った発信機が見つかり、足で踏み潰された。残るのは屋上の発信機とバッテリーだ。屋上までは無線とラインの両方でつながっている。送信。エラー。ロシアだけでなくEU、アメリカ、カナダの衛星も接続不能になっている。日本、中国、インドのはまだ効いていた。送信……
大音響をたてながらドアと引き戸を破って武装したFSBが乱入した。ズヴェルコフは、ため息を深々とつき、一筋涙を流した。机の引き出しから拳銃を取り出して机の右側に立った。自殺しようとこめかみに向けて銃口を挙げた。敵は、抵抗すると見て一斉射撃した。ズヴェルコフは全身から血を吹き出しながら宙で華麗にコサックダンスを舞い、物置のドアに激突した。

七月八日、午前二時、東京
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦