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ジャッカル21

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イポーニヤ、とつぶやく声が、股の間から聞こえた。
ワルワラは長々と語った。ズヴェルコフは、話を聞きながら興奮を押しとどめることができなかった。これこそ待っていた大ネタだった。彼は、ワルワラの両腕を引っつかんで立ち上がらせた。ウォッカも牛乳も床に飛び散った。大声を出して、いつその男は出発する予定かと尋ねた。彼女は、もう昨日の夕方にモスクワを発ったと言った。自分の亭主もその男を追って今日の昼にはモスクワを離れたはずだ、二人の交通手段やコースは分からない、とも言った。それですべてか、他に聞いたことはないか、と問い詰めると、彼女は、夫から聞いた、その男が外務省の応接室を出て行く際の言葉をゆっくりと口にした。ズヴェルコフは聞き返した。ワルワラは同じ言葉を繰り返した。ズヴェルコフは強い違和感にとらわれた。なぜそんなに強固な意志が持てるのか。雇われの殺し屋ではないか。プロの暗殺者がそんな深い信念や執念を持てるのか。
彼は、大急ぎで彼女に服を着させてたたき出した。財布ごと彼女の短パンのポケットに突っ込んだ。何万ルーブリあったか分からなかったが惜しくなかった。後でまた来る、という彼女に向かって、もう来てくれるな、俺もやばいが、お前も危ないぞ、とどなった。そしてすぐさまキーボードに向かった。今聞いた話を細大漏らさず急いで書き送らねばならなかった。
夢中になってキーを打っているズヴェルコフには、ベランダの手すりがたてたかすかな音が耳に入らなかった。鉄が鉄とそっとぶつかる音。通りの真ん中から鉄梯子がベランダにかけられた。
(……私の情報源はその人物のロシア出国と日本入国の際の援護責任者だ。もしあるとしての話だが、その男の日本出国は、別の部局の責任となるようで、それが連邦保安庁か他の省庁かあるいは軍かは分からない。彼が日本に滞在中の掩護はしない。いつもそうだ。ロシア関与の印象を絶対持たれないように細心の注意が払われているのだ。彼も単独行動のほうが有効であると思っているらしい。それが好みでもあるらしい……)
さすがにドアの向こうに複数の足音が左から右へと過ぎて行った時、ズヴェルコフは上体を起こした。頁岩の廊下の床を引っかく金属音が響いた。民警の靴はゴム底だがFSBの靴は鉄底だ。ドアの向こうから大声が聞こえた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦