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ジャッカル21

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叫びながら窓のそばにくっついてくる男に、さらにもう一枚、一万円札を手渡した。男はしぶしぶ柵を引いた。大急ぎで戻ってくると、窓から手を突っ込んできた。ジャッカルはさらに二枚の札を握らせた。
黒部平と黒部湖を結ぶケーブルカーは、山腹をくりぬいたトンネルの中を走る。かつてはダム工事用の材料を運ぶための作業路だった。今は観光用のケーブルカーの線路と、非常用の階段道が、急坂に並んで延びている。
ジャッカルの車は、闇の中へ沈んでいく急な階段を、走り降りた。寒い。バウンドして落下、バウンドして落下を繰り返す。でんぐり返りそうだ。エンジンと、跳躍の立てる轟音がトンネルにこだます。車高を最も高く調整してあるのに、排気ガス用のパイプが外れた。派手な音を立ててケーブルカーの線路に転がっていった。車体が下から登ってくるケーブルカーと接触しそうになった。観光客が驚愕の表情を浮かべて窓に張り付き、ジャッカルの車を見ていた。
下に着くまでに五分かかった。開いている柵のそばに、若い駅員が、目をむいて突っ立っていた。
黒四ダムは、高さが百八十六メートルもある。アーチ式になっていて、川下に向かって逆勾配でせり出ている。斜めにかしぐ大曲面は、山中に出現したモダンアートのオブジェだった。
その大曲面の上の縁を、ジャッカルは警笛を鳴らしながら疾走した。歩いている観光客たちは驚いて道をあけた。中には、携帯で撮影する者もいた。
そのまま関電トンネルに突入。大型トロリーバスが、ゆうゆうとすれ違えるほどの道幅がある。いくつもの横穴があるが、今は倉庫や避難所になっている。
バスを追い越した。警笛の応酬となった。トンネルを通過するのに十五分かかった。
ジャッカルは止まらない。さらにスピードを上げる。扇沢を過ぎた。日向山高原を突っ切った。大町までひた走りに走った。

七月十一日、午後三時、長野

伊那市警一課の岡林太一郎警部補は、若い巡査二名を連れて、パトカーで市内の検問のチェックに回っていた。岡林は小柄だが体重が九十キロを超えていた。夏が大の苦手だ。今日のようなかんかん照りの日に外回りに出かけるのは苦行だった。検問場所が近づいてきて、さあて、降りなければ、と思うとため息がでた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦