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ジャッカル21

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「あの人はこんなに美しい国に住んでいるのか」
弥陀ヶ原を過ぎた。左手に立山の旧火口とカルデラが見えた。立山の頂上は雲に隠れているが、左右の山腹を延長してみると、それほど遠くない雲の中にあるらしかった。天狗平を過ぎた。道が大きく蛇行する。何台目かの観光バスとすれ違った。室堂のバスターミナルを過ぎてさらに登る。速度を落とさずに立山トンネルに突入した。まわりがオレンジ色になった。トロリーバスとすれ違った。五分で通り抜けて、大観望に出た。
ジャッカルは車を降りて、展望台の端まで行った。正面には後立山連峰が広がり、その手前に黒部湖が見える。白い自動車道が、くねくねと斜面を降りている。一度、谷底に降りてから、再び黒部平まで登らなければならない。大まかに道を確認すると、ジャッカルは車に戻って発進した。
工事用の旧道は、舗装されていない。山岳レースのような運転を強いられた。木の枝や蔦がフロントガラスにぶつかった。鹿が走って逃げていった。谷底は蒸し風呂のように暑かった。はるか頭の上をロープウェイのゴンドラが通り過ぎていく。黒部平まで四十分もかかった。
ケーブルカー乗り場の、車止めのところで停車した。サングラスをかける。駅員が走ってきた。
「駐車場はあちらですよ。どこから来たんですか。営林署以外の車がここを上ってくるのは珍しいですね。あっ、そうか。関電のかたですね」
「まあ、そんなところだ」
そういいながら、ジャッカルはポケットから一万円札を数枚取り出した。
「ダムまで降りたいんだが。ケーブルカーの横の工事用道路を開けてくれないか?」
そう言いながらジャッカルは窓から腕を伸ばして相手の手に紙幣を一枚ねじこんだ。
「そんなことできませんよ! それに、階段がついてますよ。車が通れるはずがないです」
「いいや通れるよ。昔は何度も行ったり来たりしたもんだ」
ウソをつきながらジャッカルはもう一枚の札を握らせた。男の顔にわずかな動揺が見られた。
「下に連絡して、柵を開けておくように言ってくれ」
ジャッカルはエンジンをかけて、ヘッドライトを灯した。車首をケーブルカーの乗降口に向けた。
「ちょっと、困るんですけど」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦