ジャッカル21
富山市の東のはずれ、寺田に近いところの、第二田辺荘二階の二Kのアパート。玄関を入ってすぐ右側がトイレとバスルーム。左がキッチン。左奥に六畳間があって、右奥が四畳半。その四畳半の寝室からかすかないびきが聞こえてくる。いびきの調子に少しでも変化がうかがえると、ビクリとする。あの人は怪我している。それなのに、昼間も夜も自分はせっついてセックスしてしまった。目が覚めたら謝っておこう。しかし、あの男、いいセックスをするなあ。もしかしてスティーヴンよりもいいかも知れない。もしかしてスティーヴンよりも優しいかもしれない。
大のゴミ袋を三つ、下まで捨てに行って、部屋はやっとどうにか見られるようになった。畳の黄ばみや、ガラス戸のひび割れや、壁に走る結露の痕は、仕方がなかった。
さて次は、あの人においしい朝ごはんをつくってやろう。サンボアンガ風の海鮮料理ができればいいのだが、あいにく日本では、エビが高価だ。具は冷蔵庫にあるものを総動員して、といっても鰯とかつおと昆布と野菜で何とかごまかそう。その代わり味付けについては、サンボアンガから持ってきたナツメグとヤシの粉末をふんだんに使って驚かせてやろう……
マエリアは、出来上がった料理を鍋ごと盆に載せて四畳半の間に静かに入った。炊飯器も差込を抜いて持ち込んだ。粗大ゴミ置き場から拾ってきたテレビをつけた。画面にはひびが入っている。いびきをかいて寝ている男の、裸の肩をそっと押した。
「朝ごはん、できたわよん、スティーヴン」
男は真っ裸のまま、布団の真ん中で胡坐をかき、器用に箸を使って、猛烈な勢いで食べた。マエリアは給仕をしながら、あらためて、男の体を観賞した。実にいい体をしていた。喧嘩もきっと強いだろう。大阪のヤクザを追っ払ってくれるだろう。たくさんの傷もほとんど治ってしまった。驚異的な治癒力だ。太い首のすぐ下から、金色の体毛が、からだの前面を覆っていた。陰毛の間から、さっきゴミ袋に放り込んだソースの大瓶のような陰茎がそそり立っていた。マエリアはその大瓶から目が離せない。男が鍋と炊飯器両方の中身を空にして、布団のうえにひっくり返るや否や、マエリアは裸になって、何回目になるのかわからないセックスに挑んだ。