ジャッカル21
各国の軍、警察、情報局、インターポールなどには、新潟で採取した遺伝子情報を送った。その回答は、一致するデータがない、といった類のものだった。消極的な非協力の姿勢が見えみえだった。省庁にいたっては、調査の必要を認めないという倣岸な返事を送ってきた。普段の、なーなーの付き合いが、いざとなるといかに脆弱なものになるか、思い知った。日本がいかに孤立しているか、つくづく身にしみて感じた。
ジャッカルが暗殺事件を犯した疑いの最も濃い二国、イスラエルとアフガニスタンに対しては、計画的に攻めた。イスラエルは、副首相暗殺の犯人は、アラブ過激派ゲリラ*****派に所属する三十二歳の男性で、すでに死亡が確認されていると応答してきた。確認の証拠を出せというこちらの執拗な要求に対して、イスラエルは、その男の射殺死体と死顔の写った写真を送ってきた。日本の刑務所にいる日本人の元ゲリラ隊員にそれを見せてチェックが出来た。
アフガニスタン政府が大きな貢献をした。讃えてやまない我らが指導者を暗殺した悪魔の化身を、世界の果てまで追っていくといった、激情の吐露に続けて、容疑者候補の一覧を送ってきたのだ。日本は、あなた方に協力して、卑劣きわまる暗殺者をアジアからなくしてしまう覚悟である云々と、おおげさに伝えた成果だった。発展途上国の熱血指導者を騙したようで気がひけた。
容疑者は五人いた。アメリカ人三名、ロシア人一名、国籍不明者がひとり。アフガン戦争以来、アメリカがアフガニスタンでテロ工作をしてきた疑いがあることがわかる。しかし、アメリカ人三名の七月六日と七日のアリバイはすぐにとれた。外務省の情報官室は、さすがに動きが迅速だった。残りの二名についてはいまだに不明だ。特に、国籍不明者という表現が腑に落ちなかった。不明であるとなぜ明確にいえるのか? 不明と言い切るためにどんなことをしてみたのか?
その人物の名は、ヤコブ・アレギーノフである。名前からして明らかにロシア人なのに、アフガニスタンの真摯な追跡者たちが、その男をロシア人であると確定しえない理由はなんだろう?
田岡は、以上の、自分なりの感想を、総監にも国家公安委員会にも外務省にも、すでに伝えてあった。もちろん、アフガニスタン政府にも、折り返しそのような疑問点の回答を要求した。
反応は、現時点では、ない。
七月十一日、午前九時、富山