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ジャッカル21

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ノックの音が聞こえたのが一時間前だった。ドアを開けてやると、Tシャツに短パン姿、長い髪で顔を隠したワルワラが、酒臭い息を吐きながら倒れこんできた。誰が彼女を政府高官夫人だと思うだろうか。ズヴェルコフはいつものように廊下の左右を窺った。彼女の御乱行は、省庁の関係者だけでなく、モスクワの遊び人たちの間でも評判になりかけていた。いつ自分とのスキャンダルが表沙汰になるか、知れたものではなかった。別の場所で会わなくてはならないのだろうかといつものように考える。場所代があるくらいなら私によこせ、と彼女は言うだろう。食費を切り詰めて貯金している位なのに、ワルワラへの報酬に加えてホテル代を出すのは不可能だった。
彼女は、シャワールームに消えた。やがて歌声が聞こえてきたが、げっぷ交じりだった。時々吐いていた。素裸で出てくると床に仰向けに寝てしまった。剃った陰毛が短く生えかけていた。
三十分ほどいびきをかいて寝てしまうと、きょとんとした顔をして起き上がった。冷蔵庫からウォッカの瓶と牛乳パックをもってきて、床にあぐらをかいて交互に飲み始めた。そして話したのが?ジャッカル?のことだった。
前日の晩に、彼女は夫と古い映画をDVDで見ていた。彼は久しぶりに休みをとれてうきうきしていた。ジャッカルの日、というドゴール暗殺未遂事件を描いたサスペンス映画だった。見終わると夫が笑いながら、おととい私もジャッカルに会ったよ、と言った。言い終えて、しまった、という顔つきをした。彼女は、最初は何のことかわからなかった。どういうことだ、と訊くと、夫は、ああ、勘違いをした、なんでもない、と答えた。ワルワラは、彼を逃がさず、執拗に追求した。
「ジャッカルのような男がロシア大統領を暗殺しに来たの?」
夫は、そうじゃない、としぶしぶ答えた。
「じゃあ、ロシアからジャッカルのような男がどこかの国に暗殺のために出かけていくのね?」
そうだ、と答が返ってきた。
「その国はどこなの?」
答えがない。
「いい子にしてよ、アレック。あなたの大好きなワルワラが知りたがってるのよ」
彼女は、大げさに抑揚をつけて語りかけた。
まだ答えがない。
彼女は、金になりそうな話を夫から引き出すためにはどんなことでもしてやってきた。この時もそうだった。裸で逆立ちしてやった。餌につられてアレクサンドルはしゃべってしまった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦