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ジャッカル21

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「みんなで引っ張れって、綱引き大会の実況中継ですか?」
「言うと思った。みんなのヒットパレード。ああ、もうやめよう」
袋田が話をやめようとしたのは、世代間格差を思い知らされたからだけではなかった。背後から妙な音が聞こえてくるのが気になったからだ。アスファルトを引っかくような、規則的だが、ひどく耳障りな音だった。
バックミラーを見た袋田は仰天した。バッファローほどの大きさの虎が、宙を踊って追いかけてきていた。袋田はつぶやいた。
「後ろを見てもいいけど、おしっこを漏らすなよ」
首を窓から外に伸ばして後ろを見た江刺は、急いで席に坐りなおした。
「すこし漏れちゃった」
袋田はたちまち冷静さを取り戻した。
模造の虎の毛皮だと思っていたのは間違いだった。ホンモノの虎の毛皮だった。開けっ放しの窓からその匂いが漂い出ていた。虎は、毛皮にされた仲間の復讐のためにこの車を追跡しているらしい。虎の毛皮を捨てても手遅れだろう。それを見た虎は、さらに憎悪を掻き立てられるだろう。袋田はふとあることを思いついた。江刺に向かってできるかぎりやさしく呼びかける。
「あの虎を撃ってみろ」
「何ですって?」
「撃つの。あいつを」 
「何言ってんですか、袋田さん。猫大好きの私に向かって。だいいち、私、生きものを撃ったことなんかありません。いや、いや、いや」
江刺は頭を振って泣き出した。同時にしゃっくりが始まった。袋田はうろたえた。
無線電話が鳴った。
「もしもーし、こちら、生活安全課の室町です。袋田さん、県境の検問では今のところ不審車は出ていません。そちらはお変わりありませんか?」
「いやなに、ちょっとしゃっくりが……」
「えっ? ジャッカル? ジャッカルが見つかったんですか?」
「いや、見つかったのはジャッカルじゃない。虎だ」
「またまたご冗談を。かんべんしてくださいよ、袋田さん」
「冗談ではない。歯をむき出して迫って来てるんだ」
「……」
「おい、聞いているのか? 爪が道路を引っかいているこの音が聞こえんのか。まあ、聞こえんだろうなあ。とにかく信じてくれ。あの虎が出たんだ。俺はマジだ!」
「いまいち、信じられないところが……」
「あーあ、いいよ、虎に食われてやるよ。後悔すんなよ」
「……わかりました。お言葉を信じましょう。正確な位置をお知らせください」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦