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ジャッカル21

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週末は、バリハイが休みなので、早起きして朝方に稼ぐ。小さな牧場を回って「集乳」している。集乳作業というのは、ブランドを持たない中小の牧場から、少しずつ牛乳を集めて、センターに届けることだ。センターでは、ブレンドして、パックにつめて、ブランドタグを貼り付けて売りに出す。牛乳を購買する人たちは、製造月日を気にするので、センターとしては、新鮮な牛乳をディリバリーするために、週末も休みなしに作業している。
さらにマエリアは、集乳先のほとんどの牧場で、アルバイトをしている。週末は作業員が休みをとるので人手が足りなくなるからだ。
マエリアは力の限り働かなくてはならなかった。故郷のサンボアンガには年老いた両親がいる。弟と妹が合計六人もいる。血のつながっているらしいのは三人だ。しかし、しょうがないではないか。すぐ下の弟ヴァンティラは、マニラ大学に昨年合格した。情報工学専攻だ。一族のホープだ。その弟のためには、何をしてもいいとマエリアは思っていた。さらに、自分の娘キャロラインがいる。両親が、なめまわすようにかわいがって育てている。まだ二歳なのに、大人の顔つきをしている。色が白くて美人だ。自分の子とは思えない。女優にしよう。なにせ、スティーヴンがハンサムだったから……
マエリアはいつも怖がっている。大阪から逃げて来て、ただではすまない。ヤクザが追いかけてくるだろう。もう来ているかもしれない。下手すると殺される。パスポートと免許証が贋物であるのがバレやしないかと恐れてもいた。バレたら仕事の条件が極端に悪くなる。仕事に就けなくなる可能性もあるし、つかまって強制送還の可能性もある。心が一瞬も休まらない。
マエリアは、今日最後の牧場についた。早朝から仕事を初めて、もう十一時をまわっていた。富山共同乳業の冷蔵トラックを畜舎の前に停めると、少し離れたところにあるサイロの中に入った。入り口は国道側にあった。いかにも物騒だが、開けっ放しだった。蒸れるのを嫌がる牧場主のわがままからそうなっている。
マエリアは、入り口のすぐ左側の壁に取り付けてあるハンドルを回した。サイロの屋根近く、九メートルの高さのところに、三つの窓が切ってある。それらも、夏は夜のあいだ開けっ放しだ。昼間は日差しを避けるために閉めねばならない。マエリアは、まず東開口部、次に南開口部、最後に西開口部の順で閉めていった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦