ジャッカル21
ジャッカルの担いでいるリュックの中のものは、すべて厚いビニールによって真空パックされている。真空ポンブそのものも、逆流防止弁のついたストローつきの袋に入れて真空パックされる。雨や雪のためだけではなく、渡河や上陸用舟艇による海岸線攻撃の場合も考えて、旧ソ連陸軍が開発した。
傷は塩水に沁みてずきずきと痛んだ。海水を透かして見ると、腕や脚の傷がぼんやりと光っていた。染み出る血液もわずかに光っていた。蛍光性のバクテリアが血球を食っているのだった。そのほのあかりによって見えるだけでも、十ヵ所ほど傷があるのがわかった。
さらに強く光るものたちが、ジャッカルを取り巻いていた。満天の星空を、ジャッカルの周りだけに圧縮写像したような輝きの中を、ジャッカルはゆらゆらと歩んでいた。ホタルイカの大群の中に迷い込んだのだった。イカたちは、海が寝息をたてるように、一斉に点滅を繰り返した。蛍の群れが光る場合と同様だ。無言の掛け声に合わせて、墨ではなく光を吐いた。
岬に突き当たったジャッカルは、崖に取りすがり、ゆっくりと登り始めた。太陽もまた昇り始めていた。
右手に広がる日本海は、夜明けの紺青色一色だった。海と空とのあわいもさだかでない混沌だった。
ジャッカルは牧場の縁に着いた。ゴルフ場のように広い。わずかに海側に傾いた斜面には人っ子一人いなかった。柵の代わりにめぐらせてある太い電線に尻を預けて、日本海を眺めた。
夜明けの到来のせわしなさのうちに、地球の自転が実感できた。崖を登っているときには、青一色だった世界は、分節化が急速に進んでいった。目線の位置の遥か彼方、半島の突端に点火したかと思うと、黄金の導火線が一気に走って、水平線があらわになった。夜の闇はいつの間にか姿を消して、背後の立山連峰の影が視野の左手に広がる富山湾を覆うだけとなっていた。連峰の背後に、巨大なひまわりのような太陽が、姿を現し始めた。その光の縁が連峰の尾根を乗り越え、水平線からこちらに向かって、自らの数え切れない細かな分身をばら撒いていく。その金の分身たちは、テーブルクロスにこぼれて沁みていくようにじわじわと広がり、岸へ近づいてきて、きらきらまばゆいひまわり畑となっていく。ジャッカルは思い出す。延々と遥かにのびて天までとどくひまわり畑。ああ、我がふるさと。
思い出や連想が湧き出すのを誰が止められようか。