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ジャッカル21

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二階に上がると、隣の部屋をのぞいてみた。和室のふすまが半開きで、部屋の真ん中のテーブルの上に、ブランデーの空ビンが立っていた。心配になった袋田は、一階に舞い戻り、玄関の掃除をしていた奥さんに、連れが風呂の中で寝てしまったので、大丈夫かどうかちょっと見てきて下さい、などと言ってしまった。奥さんは、満面に軽蔑の表情を浮かべてにらみつけると、身をかがめてすり抜け、走り去った。

七月十日、午前十一時三十分、富山

富山湾の海流は複雑だ。能登半島が突き出ているので、半島のわきの下に当たる富山湾は、大きな渦を抱きかかえたようになる。湾内には対馬海流とは逆方向の、東から西に向かう流れが湾岸をなぞって行く。魚津、滑川、富山と、湾岸はほぼ滑らかで、幅は狭いが、白砂青松の景色が続く。ただ一ヵ所だけ、半島が親指のように海に突き出ている。その半島は、正三角形をなしていて、標高ゼロメートル以上の面積は、農牧用地30ヘクタール、その他30ヘクタール、計60ヘクタールだった。突き出た正三角形の頂点近くに、牧場主家族と使用人合わせて十人の住む母屋がある。二階建ての別荘風の建物だ。富山湾を一望する景観を楽しみ、家畜の糞尿の臭いを避けるために、その建物はできる限り海側に逃げて建っている。牧草地を隔てて、三角形の底辺の中点に畜舎があり、一歳半から五歳までの乳牛二十三頭が飼われている。底辺の東の端に、小さなサイロがある。冬の間、牛たちに食料の半分を供給していたサイロも、今は、牛が食べ残した半腐りの乾草が五、六トンほど積まれているだけだ。ガスが充満していないかどうか、時々人が見に来るが、ほぼほったらかされている。
乾草と壁との間にトンネルができている。入り口はふさがれている。
その繭のように居心地のいい隠れ家で、ジャッカルは眠りこけていた。
ジャッカルは、その日の午前二時少し前に衝突事故を起こした。カーヴを左に曲がっていくジャッカルに向かって、対向車線から、いかにも酔払い運転らしい乗用車が突っ込んできた。ジャッカルが右にハンドルを切ると、相手はそれにつられるように左にハンドルを切った。正面衝突してしまった。ジャッカルは、一瞬、体を前に倒して、左手で心臓を、右手で額を覆った。エアバッグが胸を押した。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦