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ジャッカル21

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「再び、言ってる意味が分からん。相対的? 何と比べてるんだ?」
江刺は、顎で風呂場の入り口を指した。袋田はふり向いた。擦りガラスを透して、赤いゴルフバッグがぼんやりと見えた。
「ええっ、もしかして、あいつのほうが男よりいいって言ってんのか?」
「ウン。わたしは毎晩あいつと寝てるの。ちなみに、人間の男としたことはないのよ」
袋田は、はずかしながらも妄想をかきたてられた。
「時には、弾込めて、安全装置はずしてヤルのよ。じっつにいい。たまらんね! 妊娠しそう!」
袋田は鳥肌が立った。
「いい子だから、お願いだから、これからは決してそんな真似はしないと、おじさんに約束してくれないか?」
「イヤーだね、あたしの勝手でしょ?」
「死ぬぞ!」
「大丈夫なの。ガキの頃から父親の猟銃でやってきたからさ。慣れ慣れよ!」
どこからか越中小原節の音頭が聞こえてきた。川のそばに作られた仮設舞台を袋田は思い出した。県境からここまでパトカーを運転してきた県警の巡査が、指さして教えてくれた。江刺がハミングしながら湯の中で踊りだした。後頭部を風呂の縁に載せて支えているだけで、体は吹流しのように揺らめいた。目のやり場に困った袋田は、大きなガラス窓の向こうの露天風呂を見ながら口をひらいた。
「オリンピックでは何位だったんだ?」
「フン、ビリだったわ。しゃっくりが止まんなくてさ」
「止めようはいくらでもあるだろうに。鼻をつまんでつばを飲み込むとか、水を飲むとか」
「何してもだめなの。あたし、緊張するとしゃっくりがどうしても止まらなくなるの。日本国内だとなんともないんだけどな」
「意外と神経質なんだな」
「射撃やるやつは神経質です。神経質な人間が撃ちたくなるのよ。射撃の本質を理解してないなあ」
袋田は、拳銃射撃の練習のことを思い出した。あまり成績がよくなかった。目標を狙っているあいだの緊張感で胃が痛くなったものだった……
いつの間にか静かになったと思ったら、今度はいびきが聞こえてきた。江刺は、仰向けに、長々と延びて漂っていた。袋田はそっと湯から出た。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦