小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジャッカル21

INDEX|56ページ/141ページ|

次のページ前のページ
 

手段としてまず考えられるのは、車を盗むことだ。市内で、今朝八時の段階では、盗難車の届け出はなかった。しかし、週末でもあるし、発見の遅れることはしょっちゅうだから、この線はありだった。同様に、オートバイや原チャリ、自転車さえも可能性はある。
袋田は現場を思い出してみる。人家から離れた海岸通りだ。休日のせいか、車の数が極めて少ない。深夜はほとんど車が通らないのではないか。だから、車が炎上するほどの死亡事故が起きても、発見が二時間も遅れたのだ。富山市内まで三十キロもない。たとえ自転車を使ったとしても、検問が始まる前にゆうゆうと富山市内に入れる。袋田は、ジャッカルがすぐそばにいるような気がしてきた。富山を通り過ぎているとは思われなかった。食事をとり睡眠をとらねばならない。それには都会にまぎれてしまうのが最も都合がよいからだ。
富山からどこへいくかを袋田は想像しようとした。しかしもう、疲労の極にある脳みそは、言うことを聞かなくなっていた。頭に浮かぶのは、朝、事故現場から見た富山湾の、穏やかな海の拡がりだけだった。袋田はうとうとしかかった。
「失礼します!」と、昨日聞いたようなせりふがまた聞こえた。
ふり向いた袋田はびっくりして溺れかけた。はっきりと目が覚めた。真っ裸の江刺邦子が敬礼しながら直立していた。ほとんど陰毛がないので、下から見上げると割れ目が丸出しだった。
「おいおい、それは、なしだ! さっさと出て行かんか!」
袋田の抗議の叫びを無視して、江刺はどぼんと湯船に飛び込んできた。
「どっかが具合悪くなるのかしら、おじさん。叔父さんは平気なんだけどな」
「言ってる意味がわからん」
ところが、ふと、変なことを思いついた。
「叔父さんてぇのは、ええっ、もしかしてあのおじさんか?」
「そうよ。わたしは子供の時から、どうもお父さんの可能性があるとにらんでるのよ」
袋田はえらいことを聞いてしまったと思った。そういえば、顔が似ている。声も似ている。
「おい、くっつくな」
「くっつくとどっかが具合悪くなるのかしら。わたしはなーんともないわよっ。叔父さんはもっとそばに寄りなさいって言うのにね」
袋田は肩でつつかれ、本当に湯を飲んだ。
「わたしはくっつこうがくっつかれようが、大して感じないなあ。男に興味がないの。袋田さんに魅力がないなんて言ってないですよ。ただ、相対的にねぇ」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦