ジャッカル21
「さあてと、お話は伺いました。捜索のほうは、今、第三方面機動捜査隊が出動していますので、任せておおきになっていいと思います。お二方とも、昨日からお休みにはほとんどなっていないようにお見受けします。失礼ながら、汗まみれ、埃まみれだ。あ、いやいや、気になさらんでください、どうせ古ぼけた汚らしいソファですから。泥でも何でもこすりつけてやってください。ま、風呂に入って、仮眠をおとりください。自慢じゃないですが、うちのフロは、温泉から源泉をひいておりましてね。小さいながら、露天風呂もついています。どうぞどうぞ」
片山は二人がこのまま昼過ぎか、上手く行けば夕方まで寝ていてくれるといいが、と思った。二台ある車のうち、自分は四駆に乗って、出かけてしまおう。釣に行くことにした。片山の頭の中で、大きなヤマメが、体全体でしなをつくって、おいでおいでをしていた。
「私は出かけるかもしれません。御用の際には携帯にかけてください。そちらがお出かけの場合は、タクシーなんか使わずに、うちの車を使ってください。鍵を家内に預けておきます。私用車ですが移動無線も衛星通信も使えますから」
片山は、あきれて顔を見合わせている二人を追い立てるように、まずは二階の客間に案内した。
風呂は、自慢どおりの見事さだった。きっちり四畳半の広さで、檜造りの、腰掛けを周囲にめぐらせた、凝ったつくりだった。湯は透きとおっているが、木肌の香りに混じって、かすかに硫黄が匂った。
袋田は、湯船の中に腕を組んで顎まで沈んでいた。沈思黙考していた。
新潟県警も現場に残っていた富山県警の刑事達も、ジャッカルは魚津市内に潜伏していると主張していた。袋田は、正反対の意見を持っていた。ジャッカルが、しらみつぶしの捜索を受けるがままになるはずがない。たとえ怪我をしていようと、せまい領域内にとどまっているはずはない。事故の直後に、現場からの迅速な逃走を図ったはずだ。しかし、そのような意見は、意見というよりは印象判断であることは、袋田もよくわかっていた。もし逃走したのなら、どのような手段があったのか。
怪我の程度によって手段が制限されるだろう。シートの血痕は10ccに満たない量だった。そこ以外には血痕がなかった。エアバッグは効いていた。内出血はあるかもしれないが、重症とは思えなかった。袋田は、怪我の要因はあまり考慮しなくてよいと判断した。