ジャッカル21
応接間に入ってきたのは、カメレオンのような顔をした、体が引き締まっていて敏捷そうな中年オヤジと、二の腕が盛り上がり、骨盤が臼のように張り出した、朝青龍のような怪女だった。年齢は親子ほどの差がありそうだった。
袋田というその警部が簡単な状況説明をした。
すでに四人を殺害した犯人とおぼしき人物が、富山県内に侵入した、その者は、昨晩魚津で交通事故を起こした後、姿をくらました。犯人は怪我をしており、道路は検問中なので、市内に潜伏していると思われる。自分達もここへ来る途中に、事故現場を検分したが、もうなにも残っていなかった。だが犯人は逃亡を意図していない。東京に向かっている、重大事件を画策している、是非とも阻止し、逮捕せねばならない。犯行目的の詳細は言えない。事件の背景については、不明な点も言えないこともある。その人物の正体は、これは、はっきりと不明。
片山は、キチガイか愉快犯だろうと感想を述べた。同時に、その容疑者が殺害したというはっきりした証拠もないのに、少しはしゃぎすぎではないかと思った。さらに不腹に感じたのは、あまり情報を伝えすぎるのはよくないだろうという、この二人の態度だった。そういう態度をとるから、こっちは朦朧となってしまう。なんだか自分がいやに頭が悪くなったような気になった。どうせ俺は地方の署長に過ぎない、ろくに相手にされやしないんだ、お前らより位は上だが、消耗品だ、などといじけてしまった。
「いやあ、状況はよく分かりました。事件全般にわたり警視庁には全力を挙げて応援協力をいたします。御両方も、ぜひいくらでもおとどまり続けて、管内に闖入した重要参考人の拘束に成功してください」
片山は笑顔で語った。こういう息の詰まる状況は早く終わりにしたかった。片山は逃げる算段をし始めた。ゴルフか釣りか、どちらかにしようと思いをめぐらした。指令はとっくに出してある。報告はいつでもどこでも受けられるようにしてある。昼であれ夜であれ、釣り場であれゴルフコースであれ。