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ジャッカル21

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ジャッカルは、傷が治るまで、魚津のどこかに隠れているわ。そんなに遠くには行けないはずよ。発見現場付近は、もう検問と交通規制をしてるから、ジャッカルは新潟側には戻ってこれないし、富山市内にも入れないの。まさか怪我をしている身で、黒部の山の中に入り込んだら自滅でしょう。ふくろのねずみなのよ。捕まえるチャンスなのよ。クニチャン、お願い、富山に行って。ジャッカルを捕まえて。クニチャンにはもう会えないかもしれないけど、わたし、応援してるからね!」
最後は涙ながらで、電話は切れた。
江刺は大急ぎで着替えて、旅支度を済ませた。警察官舎の男子寮は、女子寮と狭い道を隔てて五十メートルの距離にある。二度三度と携帯にかけても出ない、眠りこけている袋田をたたき起こすべく、江刺邦子は走った。

七月十日、午前九時、富山

八尾は、富山市内から車で三十分の地方都市だ。二ヶ月ほどのちに、胡弓を弾きながら越中小原節を舞う、風の盆祭りが開催される。すでに週末には、祭りの練習風景があちこちで見られる。練習風景を見るための観光客が訪れるぐらいであるから、本番の時の混雑振りが想像できる。 
富山県警署長の片山竜彦は八尾に自宅を構えていた。彼は不機嫌だった。日曜日だというのに、朝早く電話で起こされたからだ。
電話の内容は、魚津の死亡事故について、警視庁から出向で捜査に来ているという連絡だった。片山は、事故発生の連絡だけはすでに受けていた。寝ぼけまなこで、行方不明の参考人の捜索命令も含めて、全県検問強化の指令を出した。朝八時からは、付近の識監も始めるように指示した。
事件発生後わずかの時間のうちに、桜田門が一地方の交通事故に着目して調べに来るなぞ、彼の警察人生において初めてのことだった。よほど特別なことだろうと思いながらも眠気に勝てず、再び寝床にもぐりこもうとしていると、また電話があった。魚津での交通事故は、先般連絡済みの重大警戒事項に関連する可能性あり、出向の二名が説明に伺う、とのことだった。
片山は田舎の交通事故と都心の重大警戒事項とがどう関連するのかさっぱり見当がつかなかった。不承ぶしょう着替えを始めたときに、玄関のチャイムが鳴って、問題の出向組が現れた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦