ジャッカル21
「あのねえ、ほとんど同時に交通課と刑事課から本部に緊急連絡がはいったの。袋田さん達に知らせましょうって、あたし、署長に言ったのよ。だけど署長は、明日起きてからでいい、疲れてらっしゃるから、って言うのよ。でもね、あたし、早く邦子ちゃんに知らせて、対応してもらおうと思ってこっそり電話しちゃったわ。眠いだろうけど、行動を起こして! これで手柄を立てて、どんどん偉くなって!」
「ありがとう。あなたの判断は大助かりよ。恩に着るわ。それで、連絡の内容は?」
「昭和交通所属のタクシーがある所で見つかったの。事故を起こしたの。そのタクシーからは、お昼の十一時半からずっと、長距離の客を乗せて走っているって無線が入ってた。山形県の酒田市まで客を乗せて行くって言ってたらしいのよ。一時間半おきに通過地点を連絡してきたので、タクシー会社としては、不審には思ってなかったらしいの。そのタクシーが対向車と正面衝突して、事故を起こしたのよ。相手の乗用車の運転手は即死だったみたい。ところがタクシー運転手の死体がトランクから出てきたから驚くじゃない。そのタクシー、どこで見つかったと思う?」
「酒田方面じゃないことだけは確かね。南は東京に向かう道路ばかりだからどこも検問厳しいし。あたし、見てきたもん。封鎖同然だったわよ。検問に引っかかってタクシー会社に連絡されればすぐばれちゃうわ。東にある酒田じゃないんだから西しか残ってないわよね」
「そう。富山県の魚津よ。東と西と正反対。タクシーは国道八号線を縫うようにして海岸道路を走ったらしいわ。客はねえ、途中で運転手を殺して、運転手の声色を真似て、無線センターをごまかしていたの。東京方面には見向きもしなかったのよ」
「ジャッカルだったのね。やられたな。大丸で買い物をしたら、すぐタクシーに乗って、新潟市内から抜け出したのね」
江刺は天木署長が、怒りと悔恨と恐怖で震えているのを想像した。袋田も震えるだろう、恐怖からではないにしても、怒りと悔恨は天木のそれよりはるかに大きいだろう。
「タクシー運転手は、簡易鑑定の結果、死後十一時間経ってるんだって。相手の運転手は死後まだ二時間。ジャッカルは怪我をしてるそうよ。運転席に血痕が残っていたの。鑑識に無理を言って、今血液鑑定の最中よ。昨日のお昼の事件で、ホームレスの握っていたカッターに血がついてたでしょ。あれと照合する予定。