ジャッカル21
そう言って袋田は、あんまり避けているのも悪いと思い、江刺の顔を見た。眉が細すぎて長すぎる。鼻はそれほど高くないし、リンゴの頬っぺがぽっちゃりしすぎていて、美人とはいえない。ほかの部分に眼を移す。テーブルに伸ばした腕も床にほうりだしている足も長すぎる。背中に筋肉が張り付いていて、マウスを動かすときや後ろを振り向くときにむくむくうごめいて気色が悪かった。今現に「相手はハイエナ野郎かあ」と言いながら再び大型スクリーンをふり向こうとしてねじった背中から、みしみし音が聞こえてきそうだった。
袋田のモニターには、交通事故現場の中継映像が写っていた。ジャッカルは移動手段として何を使うか? 飛行機や新幹線に乗るのは、つかまえてくれと言うようなものだろう。車しかないだろう。免許証はどうするのか? そもそも日本円をどれくらい持ってきたのか? まずは、強盗でもはたらいて金を稼ぐつもりか? 協力者とどこでどう接触するのか? 大使館関係者は監視と尾行で身動きがとれなくなっているのに?
そんなこんなに思いを馳せて、モニター画面を眺めていた袋田の耳に、江刺の素っとん狂な叫び声が聞こえた。
「あーっ、なにあれえ!」
部屋にいる者たち全員が、スクリーンに吸い寄せられるように身を乗り出した。
土曜日なので店や企業は休みだ。ATMの前に人が並ぶことはない。ぽつんとひとりか二人が使っている場面がさっきから続いていた。今、外国人らしい男が、タオルで鼻と口を覆ったまま、三台同時にカードを入れて引き出しをしていた。男は合計六包みの現金をリュックに突っ込んだ。カードを引き抜いてポケットに押し込んだ。たちまち姿を消した。画面右下の時刻は.11:05。市内一斉検問の指令が出る三十分前だ。
袋田はヘッドフォーンマイクに向かってどなった。
「縦2、横3のモニター画面! 全画面拡大して二分前からもう一度!」
袋田と江刺は立ち上がってスクリーンのそばに行った。江刺は、かかとが平らな靴を履いていても、袋田よりやや背が高いことがわかる。他の者も寄って来た。モニターの下で、汗の臭いが蒸した。中年以上の歳の男が上のほうを仰ぐと、なぜ腕組みをして、鼻息をつくのか。腹の問題か。自分もまさにそうしながら、袋田はふと思った。思っただけで、またくり返す。