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ジャッカル21

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しかし平良には、三日前に思いがけない臨時収入があった。住民票が売れたのだった。ホームレスの中には、住民票どころか戸籍を売るものもいた。やくざ風のバイヤーが、時々ホームレスの住処を回って買っていく。体を痛めてから、平良は仲間に要領を教えてもらった。顔写真十数葉と身体的な特徴を書いたメモをあらかじめバイヤーたちに送っておいた。平良は住民票や戸籍謄本のコピーを数通ずつ取り寄せて、いつも身につけおくようになった。
三日前の客は、やくざ風どころではなかった。きちんと夏用の背広上下を着ていた。なにせ外人である。その外人は、平良の顔を穴のあくほど見つめてからうなずいた。住民票は十万で買ってくれた。現金を手渡された。ただし、その外人が住民票を持っていくのではなく、ある人物に平良が直接渡すようにと言われた。しかも、さらに外人の持参した封筒ひとつをその人物に手渡すだけで、さらに五十万もはいることになっていた。相当にやばい筋が関わっているのがはっきりしていた。
約束の時刻からすでに三時間以上経っていた。平良は、焚き火の跡を見つめながらいらいらしていた。地面にじかに座り込んでいる。傍らには、竹の棒が立っている。目印に、例の外人が立てろと言ったので、七夕で使った竹を盗んできた。枝を落とし、先端にタオルが結んである。
平良は、焚き火の跡に、そこらに散らばっている週刊誌や新聞紙をかき集めて突っ込むと火をつけた。新しく買った百円ライターは、長い炎を出した。ライターを買ったのは何ヶ月ぶりだろうか。湿っている紙と流木はなかなか火がつかなかった。尻のポケットに突っ込んであった競馬新聞を取り出すとそれに火をつけた。炎が舞い上がった。平良は、その炎を流木の下に差し込んだ。橙と青の炎がちらちらと舌を躍らせているようだった。平良の心の鬱屈の炎だった。今日、俺がうまくやれば、頭金になる。沖縄に帰れる。おふくろと店が出せる……
二メートルを超える雑草は、海風にざわめいていた。潮の香りと魚と海草の匂いが漂ってくる。電車や車の騒音の向こうから、船の霧笛が呼びかけてくる。さらに、別の音が聞こえてきた。草を掻き分け踏みしだく音だった。だれかがゆっくりと大股で歩いてくる……
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦