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ジャッカル21

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「先生、ご存知なかったんですか? 彼女は日本中の女性警察官の憧れの的ですよ。ライフル射撃の名選手でしてねえ。国内では敵なしです。男もかなわない。アテネオリンピックにも出場しています。通称ライフルウーマン」
袋田はなにやらおぞましい気分になってきた。机に立てかけてあるゴルフバッグを眺めながらある疑いに駆られてならなかった。真っ赤なバッグの中身は、もしかして、ライフル?……

七月九日、午前十時四十分

雨は上がったものの、信濃川は、満々と水をたたえて流れていた。梅雨のせいでここ一ヶ月間は年間平均流量が最も多い。潮位が上がる時刻には、河川敷の野球場やテニスコートが水没するかと危ぶまれるほど水面が上昇した。
JR新潟駅から一キロ半のところに八千代橋が架かっている。七百メートル下流に万代橋がある。このあたりの両岸には高層ビルが立ち並び、新潟の街の中枢をなしている。それでも、八千代橋の左岸は、やすらぎ堤という名のついた、河川敷公園が延びている。桜や栗や欅の並木が続き、サッカー場、野球場等がある。
河川敷を西に向かって進むと、空き地が点々と現れる。市民プール建設計画があるものの、まだ着工には至っていない。雑草が生い茂り、マムシに注意、の看板が立っている。土砂をブルドーザーで掬った跡が、沼になっていて、そこに子供たちがザリガニをとりに来る。親や小学校の教師たちは、危ないから沼には近づかないようにという。以前、小学低学年の男の子が沼で溺れたことがあったからだが、理由はそれだけではなかった。あたりに、青いビニールシートでできたホームレスの掘っ立て小屋が点在しているからだった。
平良富雄は、そんなホームレスのひとりである。米軍海兵隊員の父とホステスの母との間に生まれた。沖縄のコザ出身だった。港湾労働者をしながら、あちこちの港を渡り歩いてきた。新潟港で働き始めてしばらくして、激烈な腰痛に襲われ、仕事を失った。今は、夜の繁華街を徘徊しては、残飯をあさる身だった。まだ四十歳前なのに、歯がかけ、足を引きずり、目じりの皺は深かった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦