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ジャッカル21

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天木は、昨晩、袋田先生、などとわざとらしい感動の声を出して袋田に抱きついてきた。この天木を、袋田は警察学校の非常勤講師のときに半年間だけ教えたことがあった。教えていた頃、就職すればすぐ市警の署長になって毎日朝礼で訓示を垂れなくてはいかんことになってますが、オヤジたちには何を言やいいんでしょうかね、とオヤジの袋田にわざと訊いてきた倣岸なコドモだった。終了式で、袋田は檄を飛ばした。諸君と諸君の家族の生活は国家が最後まで面倒を見る。諸君は余計な心配なぞしないで、一意専念、国民を悪と暴力から守れ。期せずして、オーッという声が上がったが、天木だけが、横を向いて嘲笑した。ぼくは警視総監になりますからね、などと教室を出るときにほざいた。袋田は東京にいる総監の顔を思い浮かべた。彼も若いころはこんな顔をしたこんな精神状態の若者だったのだろうか。現在天木は、袋田より二階級上の警視だ。出世したい人間にとって、東大法卒の履歴は頼りの綱だ。後は人間関係のもっていきかたの腕だ。袋田は、下手をすると、このくそガキの下で働くことになるかもしれないと思って身震いした。そんな妄想を振り切るように袋田は咳払いをしてから語る。
「参りましたなあ、署長。後で私が言おうと、大事にとって置いたネタを、さっさとばらしちまって」
数人が笑った。
「その、ええ、ジャッカルとやらの入国を阻止するために、国際空港と国際港湾に多重チェックを入れることになりました。早晩それだけではすまなくなってくるでしょう……」
ロシア大使館と全国にあるロシア領事館、その分室に対して監視と盗聴を続けており、要注意の職員には尾行をつけていることは黙っておいた。そして、袋田は黙ったままになってしまった。天木のせいですっかり調子が狂って、何をしゃべっていいかわからなくなった。
その時、袋田の背後上方のスピーカーからくぐもった男の声が聞こえてきた。警電が開きっ放しだった。天木が癇に走った声を出した。
「会議中だろ。切れ、切れ」
最前列の右端に坐っていた警官が跳びあがって、白板脇のスイッチに駆け寄った。袋田は、右手を伸ばして左右に振りながら「いいから、いいから」と言った。内心ほっとした。少しでも言葉が出たからだ。その警官も天木も不満そうに袋田を見やった。特に甘木は自分の沽券に関わるとでも思ったのか、露骨に怒り顔をみせた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦