ジャッカル21
若手は、警視庁からわざわざおいでなさったとはなにごとが起こったのかと興味津津だった。自分たちが参加してなにやらわけが分からない揉め事で楽しめるなら、そこそこ時間とエネルギーを提供しても惜しくないと思っていた。
袋田は、彼らと対面する形で、長テーブルについた。隣りには既に県警署長の天木真人が坐っている。まだ三十半ばの白面の青年である。袋田にとってはガキだった。この男、前日とは打って変わって、朝から憮然としている。袋田に対する反感が兆しているのは明らかだった。背面には横幅5メートルほどの白板が壁に張ってある。既に、大きさや字体の異なる書き込みが散乱していた。
彼は、十二台の長テーブルに坐っている者たちに、どういう理由で自分は出向してきたか、昨晩と今朝の異様な警戒行動は何のためか、を納得のいく形で説明せねばならなかった。国民をパニックに陥れさせかねない核心には触れずに、しかも非常事態であることを感じさせねばならなかった。
一方、敵が今日新潟に入港すると踏んだのは、自らの見当違いだったと彼らに白状せねばならなかった。しかし今後も新潟が最も警戒を要する港であることに変わりはないと彼らに納得してもらわねばならなかった。
袋田は、いくつもの?ねばならなかった?に、我ながら辟易としながら、人々の無言の要請に促されて口を開いた。
「あらためて自己紹介いたします。警視庁捜査一課の袋田喜一郎と申します。出向経験は多く、稚内から那覇まで、へめぐってまいりました。しかし、不思議にも、ここ新潟は、今回初めての出向先となりました。この地の事情は、ここ三年間の県警報告のレジメを新幹線の中で読んだだけですので、あれやこれやの御迷惑な御案内をかたじけなくも期待しております。今回の私の動きについては、皆さんは当然わけがわからないでしょうが、私自身も実はいささか当惑しております」
ため息があちこちからもれた。袋田自身が、警視庁内では訳も分からずにこき使われている下っ端だ、と思われたようだった。最低限の情報らしい情報を彼らに伝えねばならなかった。