小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジャッカル21

INDEX|35ページ/141ページ|

次のページ前のページ
 

船尾のハッチも開けられて、十六輪の移動型クレーンが活魚プールに向けてネットを下ろす。重量で魚が圧死しないように、網は、お盆のように水平にひろがっている。特殊コーティングを施した、網というよりは、細かい孔のあいた袋のようだ。その孔から塩水を吹きだしながら活魚を入れた網袋は、顎に右手をあてて、行ったり来たりしている袋田の斜め頭上を移動していく。落ちてきた水は、埠頭ではねて、袋田のズボンにしみを作った。思案にふける袋田は気づかない。それはたちまち雨と漁船内の捜索でついたしみにまぎれた。網は、万歳をしているように天井をあけて待っている水槽トラックの真上まで達し、下降し、全体をしぼませてから底をあける。活魚はぞろりと水槽に流れ込む。開いていた天井が閉じる。トラックは二十キロ離れた西港にある魚市場をめざす。

橋本直治郎は、二十四歳の漁協専任の競り師である。新潟市内の大きな鮮魚店の長男なので、すぐに店をついでもよかったのだが、市内留学という、父親の下した名目に逆らえず、魚市場で働き始めて二年経つ。怪力の持ち主であることが半年前にばれ、活き魚配分の係りに回されたことで、腐っていた。活き魚の配分を行う場所は市場外にあって、市場の動きは分からない。作業はタモで活魚をしゃくりあげる肉体労働だ。少しも利口にならない。どうやってここから再び市場内にもぐりこむ口実を作ろうかと毎日思案するこのごろである。七、八月は二日に一度、ロシア船が運んでくる活き鰯のさばきもする。
今日の直治郎は、普段よりさらに機嫌が悪い。活魚トラックが到着するのが一時間以上遅れていた。携帯で問い合わせると、抜き打ちの船内衛生検査があったので、時間をとられているとの返事だった。妙な話だった。衛生検査をセリの直前にやるはずがなかった。なんだか騙されている感じがした。自分の今の身の上も騙された結果だろうと、直治郎はひがんだ。
待っているあいだ、直治郎は、待機している業者のトラックの陰に座り込んでいた。魚市場は公営体育館を二つ合わせたほどの大きさだ。すでに競りは終わっていて、二つある通用門に出入りするトラックはほとんどない。市場に沿って走る道路の片側は、駐車した活魚仕様のトラックで埋まっていた。直治郎はぬるく暖まった舗石に尻を乗せて、タバコを吸い続けていた。この仕事を辞めるための、父親への口実を考えていた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦