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ジャッカル21

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ジャッカルはいなかった。船員一人一人のチェックと並行して、船内のいたるところの捜索がおこなわれた。船内見取り図は前もって新潟税関で強引にコピーしてもって来ていた。船長は真っ赤になって抗議をした。一時はもみ合いになった。船長は、在新潟ロシア総領事館を通して、厳重抗議を日本政府に送ると息巻いた。船長の怒りを通関職員がなだめている間、袋田たちは、船内を詳細に捜査した。沖合いで巡視船の捜査員が船内捜査をしたことはすでに聞いていた。しかし、袋田は、捜査のしつこさには自信を持っている。陸で通用してきた技を、海の上でどれだけ発揮できるか、自分でも楽しみだった。ピョートル二世号は今週最後のロシアからの船だった。そして、モスクワで起きた事件以降、ウラジオストックから出港した唯一の船だった。漁船なのに、貨物港である東港に入るのも奇妙だった。船長が海軍上がりなのも怪しかった。袋田の勘では、この船にジャッカルが乗っているはずだった。しかし、二時間かけて隅から隅まで調べたが徒労に終わった。
袋田に引っ張りまわされて動いた者たちは、袋田に対する不信感を抱き始めているようだった。袋田には、彼らのブーイングが聞こえてくるような気がした。東京から急に出向の名目でやってきて、勝手なことをして、自分たちをこき使っている。警視庁だと思って、いい気なものだ。
袋田は、ピョートル二世号の膨れた緑色の船腹を見上げた。立ち止まって感慨にふけっている袋田を置いてけぼりにして、残りのもの達はさっさとフェンスゲートの向こうに消えた。袋田は、自分の勘の衰えを呪いながら、見逃しがどこかにあったかもしれないと、さっきまでのことを思い返していく……
捜査陣を追っ払ったピョートル二世号は、すぐに荷おろし作業にかかった。
ガントリークレーンから、指方向性を持つアームが降りてきて、船首にある第一船倉内のコンテナをつかむ。クレーンの足元には、ナンバーカードを持ったトラックが、荷台の車壁を倒して待ち構えている。トラックの荷台にのっている手配師が、コンテナのタグとトラックの運転手が渡したナンバーカードを勘合符のようにあわせる。一致のピーが鳴ると、荷積み許可が下りたことになる。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦