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ジャッカル21

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船長は、三分前に、海上自衛隊の巡視船?桜木?から停船命令を受け取った。そんな命令を受けた前例がないし、定時入港違反は民事事件になる、などと抗議して突っぱねた。しかし、巡視船は、急接近してきて、今やピョートル二世号の右舷後方五百メートルの位置から再び停船を呼びかけてきた。船長は、胡坐をかいている名無しの男に語りかけた。
「床に坐れとなぜ私が言ったか分かるか? 窓から君の姿が見えるといかんと思ってね。どこのどいつが君の姿を見ようとしているか? 日本の巡視船だよ。海上自衛隊員がもうすぐ乗り込んでくる。海に飛び込んで三十メートルもぐったって、周波数フリーのソナーでたちまち見つかる。シュノーケルから出る泡の音がひろわれるんだ。少しでも動けばドップラー効果から、君の位置と速度が分かる。敵には赤外線探知機もある。体温が感知される。船から出たら最後、どうあがこうとたちまち見つかる。君に忠告する。悪いことは言わんから、船にとどまってウラジオに帰り給え。船倉に今すぐ隠れなさい。第一船倉の大型ケースに鰯どもと一緒に隠れるんだ。寒いのは我慢しろよ。急げ。新潟入港後二時間たったら出て来い」
「了解した」とその男は美しいバリトンで答えた。
船長は、自分が解雇され、ウラジオのアパートで年金暮らしをしている姿を思い浮かべて、ため息をついた。さらに、この名無しが、拘禁服を着せられて、巡視船の甲板に引き倒される姿も思い浮かべて再びため息をついた。船長は立ち上がって操舵室へのドアを開けた。その男はイモリのように四つんばいのまま、見て見ぬふりをしている操舵手たちの足元をすり抜け、巡視船から見て陰になる左舷側の鉄梯子を這い降り、甲板を這って走った。ハッチを開くとあっという間に姿を隠した。なんという軽い身のこなしであることか。船長は、一部始終を見ながら、この男はいったい何の用で日本に行くのかと、あらためて思いをめぐらしていた。

七月九日午前八時、新潟港

雨が上がった。全身汗みずくの袋田が、ピョートル二世号の上甲板から渡船ボードを踏みながら降りてきた。後には、新潟県警の公安第一課の刑事が二人、捜査一課員が二人、国際捜査課員が二人、市警の刑事が三人、通関職員三人が続いた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦