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ジャッカル21

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二十二人の船員たちは、実質的には半徹夜作業を強いられる。ひとりで何役もこなさねばならない。禁酒禁煙、作業中は私語も禁止だ。しかし誰一人文句を言わない。みんなこの職を得るために、十数倍の選別テストを経てきた。何日も何週間も外洋に出るわけではない。わずか一日半で、普通の稼ぎでは一週間分に当たる金が入った。ミスをしてはずされないかぎり、夏の二十六回の漁で一年分の収入が確保できた。夏場二ヶ月だけの仕事ではある。秋から翌年の春にかけて、ピョートル二世号は北太平洋での遠洋航海に出る。そもそも遠洋漁業用に造られた船だ。少し改造すれば捕鯨母船にもなるほどの重装備船だ。主にスケトウダラをとる。白身は日本だけでなくヨーロッパも買う。メンタイは釜山の競りで日本が九割を競り落とす。この長期にわたる航海に雇用されるには更に厳しいチェックを受けねばならない。だが、支払われる大金目当てに、やはり倍率十数倍にもかかわらず応募者が殺到する。
今船員たちは入港準備に大忙しだった。ただひとりだけ例外がいた。
その男は、年齢が三十七八ぐらい、ビニール製のレインコートを着て船首楼の突端に立っていた。コートの下に、粗い目の中袖シャツを着て、膝までのゆるいバミューダパンツをはいていた。どちらもカーキ色だ。素足にゴム草履を突っかけている。コートの上から黒いリュックを背負っている。布製の、物を入れたら垂れ下がってしまうようなものではなく、牛皮か強化プラスティックでできており、大型のランドセルといったところだ。その上の口からはテニスラケットの柄のようなものが二本突き出ていた。男は丈が高く肩幅が広い。首、腕、脚の筋肉が張り切っている。服を着させたダビデ像のようだった。髪は栗色に近い金髪。突き出た額の下には思慮深そうな碧眼が光っていた。
あくびをかみ殺しながら沖を見つめている袋田と愁いを帯びた顔面蒼白のその男は、このとき、十五?に渡る霧雨を隔てて向き合っていた。
船首楼に掛けられた鉄のはしごが小刻みに音を立てた。副操舵手のオブローモフのはげ頭がつき出た。彼は、はしごの中途で止まり、顎を船首楼の甲板に乗せるようにして、早口で言った。
「船長が急いで来てくれだとさ、兄弟」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦