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ジャッカル21

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西港は、信濃川河口の両岸に位置する古くからの港である。蟹はすでに航行中に冷凍箱詰めされており、万代島魚市場の土間に山積みになって、翌朝のセリにかけられるのを待っていた。一隻十五人ずつの船員は、全員下船の意志を示した。それを楽しみに3Kの仕事を我慢してきたのだった。袋田は税関事務員たちと協同で、ふくれっつらの彼らをひとりひとりチェックした。通関代理店から港湾事務所に抗議の電話がはいった。そういうことをされるとロシアとの間に長年にわたって築いてきた信頼関係に傷がつく、代理店としては営業上困る、と言ってきた。袋田はあっさり無視した。
警察官舎の空き部屋にたどり着いたのは十二時過ぎだった。六畳間の学生下宿のような部屋に布団を敷きながら、袋田は今日自分がしたことの意味を考えた。
警視庁の警部が税関職員を通訳に使って首実検をしているといううわさは、新潟港にこれからはいる予定の外国船にたちまち広まっただろう。船員たちは、前触れなしの警戒態勢にあわてているだろう。船倉の樽の中に隠れようかと思うものも出てくる。上陸を差し控えるものも出てくる。その中にジャッカルがいれば幸いだった。そのまま帰ってくれるのが一番だ……
一方、袋田のしつこいやり方は、港湾調査官たちにも知れてしまったはずだ。現場の人間は、チェック強化の理由を知らされない。袋田のやり方を知って、よほどの理由があるのだろうと妄想をかきたてられ、嬉々として、入国者いじめに精を出すものも出てくるだろう。袋田が余計なことをしたと不満に感じるものたちも出てくるだろう。週末の計画をおじゃんにして時間とエネルギーをお上にささげねばならなくなったからだ。
また、たくさんの人間から嫌がられることになるわい、と袋田は嘆息して、たちまち眠りに陥った……

袋田は、誰に見られるわけではないものの、あくびをかみころしながら防波堤のほうを振り返った。雨は揺らめく海面に音もなく吸い込まれていく。きりなく降り注ぎ、きりなく吸い、雨も海も倦むことがない。どちらも同じ水なのだからか、親しく混ざり合っていって停滞がない。袋田の待ち構えている船は、雨の作る遮蔽幕のかなた、新潟港沖十五キロの地点を時速十八ノットでゆっくりと接近中だった。

総トン数四千二百トンの超大型トロール漁船ピョートル二世号は、ウラジオストックを出て、すでに丸一日以上経っていた。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦