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ジャッカル21

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警視庁刑事部捜査第一課の袋田喜一郎警部は、ひとり埠頭の作業を眺めていた。連れの者たちは港湾事務所のソファで居眠りをしているはずだ。大きなこうもり傘の下の体は、中背だがたくましい。背中と胸の筋肉が盛り上がり、太ももと尻は張り切っていた。とても五十四歳とは見えなかった。ねずみ色の麻の上下を着ている。上着の下は開襟シャツだ。頭髪は薄くなっているが、眉は黒々として左右に垂れている。顔は人間離れしているほどに印象的だ。カメレオンにそっくりである。じっと見つめられた者は今にも長い舌が伸びてくるような錯覚に陥る。眼光は鋭く、相手は隠し事など無駄だと悟らされる。ノンキャリアながら、現役警察官中最多の総監賞受賞回数を誇っている。捜査一課きっての敏腕刑事である。
袋田は岸壁の縁に近づいて、船に沿って歩いた。岸壁は直角に左へ曲がり、南側埠頭が目の前に広がった。巨大なプールのような錨地を見下ろす。袋田はこれからここいっぱいに入ってくるはずの船を待っているのだった。
波はささやきのような音を立てながらコンクリートの壁をなぶっていた。発泡スチロールの破片、ほんだわら、ビニール袋、割り箸、ガラス製の浮き、木の葉、仰向けの水死体のようなバービー人形。昔、娘に買ってやったことがある。 

袋田は前日の朝、自宅マンションで、総監秘書からの電話を受けた。出向の用意をして総監室に直接来るようにと言い渡された。そのようなことは珍しいことではなかった。袋田は、別居中と言ってはいるが実はバツイチで、ひとり暮らしの身だ。長期の出向を頼まれやすい。
身の回りのものを大型のリュックに詰め込んだ。何日マンションを留守にするのかわからなかった。もしかして永久に帰らないかも知れないのに、気をつけての一言もかけてくれる者がいない。出向の前にいつも感じる一抹の感傷だった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦