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ジャッカル21

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重光は携帯を耳に押し当てたまま、給湯室の向かいの壁に掛けてある白板の前に歩み出た。ペンで、ズヴェルコフが危ない、と書いた。それを見た明石は腕を組んでうなった。
電話口では郡司の声が鋭さを増した。
「もしかして井出公安委員からの電話に関することですか?」 
「そうです」
「総監は井出さんからの電話を受けて、ただいまこちらに向かっているところです」
重光は胸騒ぎを押さえることができない。
「それだと話が早い。モスクワ民警が関係してきます。人民警察とはすぐつながりますよね」
「はい、つながりはしますが……」
「よかった! 二課が、いや私が責任を負います。ある人物の現状、いや、安否の調査依頼を大急ぎでしていただきたいんです。現在当人へ個人的に連絡できないんですよ」
郡司がおずおずと聞いてきた.
「あのう、そういうことはもちろん私ごときの一存では出来ないわけでして……」
重光は、膨れ上がった不安に、もはや我慢ができなくなった。
「自動車の中の総監に連絡して、調査依頼の許可をもぎ取ってくださいませんか」
「承知しました。やってみましょう。その人物の氏名、役職、住所をお願いします」
外務省極東局第二書記官アントン・アントーヌヴィッチ・ズヴェルコフという人物です。住所はモスクワ市南区******です。詳しくはメールをご覧下さい。回答がかえってくるのにどのくらいかかりますかねえ」
「モスクワ市内在住の公務員ですからね。すぐ調べられるはずです。詳しいことはとにかく、第一報は三十分ぐらいで手に入るでしょう」
「ありがたい。感謝します」
相手は、重光の興奮ぶりに臆して、様子を見ているようだった。返答がない。
「万一総監が待てと言われたら、重光が首をかけていると言って下さい。もしそれでもダメなら、私は何するかわかりませんよ。郡司さん、なんとかお願いします」
重光は空中に向かって礼をしながら、相手の発言を待たずに携帯を切った。携帯に向かってどなっている明石に、眼で合図をし、会議室を飛び出した。二課の自分のデスクに向かう。ワードで、ズヴェルコフと自分とのこれまでのいきさつを書いた。さらに調査依頼の正当性と緊急性を簡潔に論じた。それらを、さっきの会議にならなかった会議の原資料に添付し、郡司に送信した。十分で終了。耳鳴りがやまず、やたらとつばを飲み込む。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦