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ジャッカル21

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「日本にやってくるのはひとりだとしても、それを実現するためには、いくら秘密のミッションでも、陰で多くの人間が動きます。そいつらのうちの一人でも二人でも拘束して吐かせるんです」
「御冗談を。うちがそんなことに手を出したら、そりゃ、越権行為ですよ。よほどの命知らずで向こう見ずの人間がいたと仮定しての話ですが、警察庁の国際課の出先か、現地裁量を特別に大幅に許されている、なるべくなら会いたくない大使館員あたりの仕事だ。しかし、世界で最も温厚な日本の警察官と外交官の中には、そんな007まがいの者はひとりもいないし、存在を許されていないと信じています。もしお宅らがそんなことに乗りだそうなどと考えているとしたら、頭は確かか、と言うしかないですな」
長柄は、かなわんな、といった表情を露骨に示しながら、古賀に顎で合図をして立ちあがった。
「今、移民亡命問題に関して、国連発議の多国間条約のチェックで、夜も眠れん忙しさですわ。架空の話は、もう勘弁させていただきたい。早々に失礼させていただきますよ」
二人は軽く礼をして立ち去った。
重光はあくびをしながら、給湯室にいき、インスタントコーヒーをつくった。カップを両手にひとつずつ持って、明石の隣に坐った。二人はしばらく黙ったままコーヒーを飲んだ。ともに五十一歳、東京大学法学部公法コースで同期、入省も同期だった。重光が口を開いた。
「あいつら二人とも、相変わらず、いやなやつだなあ。さっそく次官に言いつけるつもりだろう。ところで、お前、どう思ってるんだよ。一言もしゃべらんでさあ。卑怯だろうが」
「狂言や精神錯乱はないと思ってるよ。ただなあ、普段のあいつとは随分違うんでね。そう言い切る自信がないんだ。通信の内容には妄想が入り混じってるだろうよ。ただし、何かが起きたことは間違いない。こっちから直接尋ねられんからなあ」
重光は苦笑した。この男は、なにかというとひとに嘆いて見せて、同情をかいながら、嘆きの中に助力のためのヒントを抜け目なく織り込んでおく。今の場合は、重光に、モスクワで何が起きたのか調べてみてくれと頼んだことになる。甘え体質は学生のころから変わらない。だからといって重光は嫌っているわけではない。その甘えが程よいところで抑えられているからだ。甘えっぱなしではなく、甘えたことに呵責を感じて、自分の次の行動のきっかけにするからだった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦