ジャッカル21
破れかぶれのでたらめを叫んだ。それでもしゃっくりは止まらなかった。江刺はまた泣き始めた。胴にたえまなく震えが走った。
江刺は肩で大きく息をしながら、うわずった声を絞り上げて、背後の袋田に呼びかけた。
「袋田さん。……私と結婚してくれる?」
「あっ? ああ」
しゃっくりが止まった。
轟音一発。ライフルは火を吹いた。
釣り船の人たちは、何が起きたのかわからなかった。運転席に立ってこちらに狙いをつけていた男は、モーターボートの後部に吹き飛んだ。
モーターボートは、そのまま相模湾の沖に向かって、走っていった。
相模湾の出口に、モーターボートが差し掛かったとき、そのそばに、ゆっくりと黒塗りの潜水艦が、潜望鏡に天草やホンダワラを引っ掛けて長く垂らしたまま浮上し、ボートと伴走をはじめた。ハッチから次々に乗組員が出てきた。甲板に整列すると号令がかかった。かかとを打ちつける音が海面に響き渡った。全員が一斉に、フーレイ、と大声をあげ、ボートに向かって敬礼した。
二〇〇五年、十二月二十四日、午後九時、長野
信州伊那谷の冬は一面の雪景色となる。飯田の町も、積雪四十センチの雪に覆われていた。多田八重子は、図書館の同僚三人と、もてない女同士で、今夜は飲んで愚痴を言い合おうと語らって、カラオケバーにきている。
同僚たちは、ほとんどへべれけの状態だった。彼女たちの愚痴を聞いていると、いかに男というものが手前勝手で、女を食いものにするか、よくわかる。特に、ブスに対して男は残酷だ。ブスは人間でないと思っている。平気でその心を蹂躙する。そんな男を相手にして振られたからって、いまさら文句言ってもしょうがないのに。近場のチンピラを相手にするからだ。男は、そんなチンピラばかりじゃない。
八重子は、あんなふうにへべれけにはなれない。もともと酔った状態はあまり好きではない。今日はすこしだけ飲んでしまったが。
飲まない理由はほかにもあった。妊娠しているのだ。もうそろそろ五ヶ月だ。父親はあの男だ。すでに検査の結果、男児であることがわかっている。誰にも打ち明けていないが、いくら太ったと言い張っても、もうすぐ通用しなくなる。シングルマザーで暮らしてみるか、と思っている。



