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ジャッカル21

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あの男が残していった、片目だけの黒いカラーコンタクトは、いつも財布に入れてある。あの男は、連続殺人事件の犯人に似ている。確かに恐い時もあったけれど、八重子は、本当はやさしい人だったのだと信じていた。
黒と青の片かたの眼で見られた時はびっくりしたが、今から考えるとなにやら象徴的だ。日本人とロシア人とに、見かけも心も分裂していたのだろうか、それとも融合していたのだろうか。分からない。また明日考えよう。
あの男がくれたお金は、おなかの坊やを育てるためにだけ使うつもりだった。
八重子には、ある予感があった。
八重子は、いつか誰かが、この子を必要とし、呼びに来るような気がしている。
その日までは、一所懸命育てよう。お父様のように男らしく、たくましく、やさしい男になるよう育てよう。
「ぃやーえーこぅ、何、ぼけっとしてるんよー。カラオケ、行けー!」
八重子は歌い始める。同僚は、ユーミンなんかオバン趣味じゃん、とか、それだから若い男に避けられんのよ、とか、野次を飛ばす。しかし、八重子はこの歌が大好きだった。それに、今日のためにあるような歌だ。歌わずにはいられなかった。
「恋人がサンタクロース、
背の高いサンタクロース」
少々調子っぱずれだが声は大きい。
八重子は、天竜川の岸辺でのあの男との一晩を、ありありと思い出していた。
あの人、今頃、どうしているかしら? 
八重子は、あの男の歌っていた歌を思い出す。あの時は悲しくて暗い歌だと感じただけだったのに、今思い返すと、すばらしく美しい歌だったのがわかる。
もうひまわりの咲く余地がないとは、たくさんの人が撃ち殺されてしまって、もう死者のいる場所がないほどになったということだろうか。人間の愚かしさに絶望した言葉なのだろうか。それとも、たくさんの人たちの犠牲の果てに、ついにもう撃たれて死ぬような人はどこにもいなくなるのだという希望の言葉なのだろうか。
八重子には分からなかった。また明日考えよう。今は、あの人のことを思い出しながら歌に専念しよう。
あの男は低い声で歌っていたが、八重子は精一杯声を張り上げる。
歌詞なんて、勝手に変えてしまう。

「恋人がサンタクロース、

背の高いサンタクロース、

氷の上をソリに乗り、

寒い国からやってきて、

私を愛してくれた人」

(完)
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦