ジャッカル21
ジャッカルは、釣り船のまわりを、ひし形を描くように右旋回している。左利きのジャッカルは、ターゲットが右側になければ撃ちにくい。ターゲットの位置を確かめる。ジャッカルは小銃をつかむと運転席の上に立ちあがった。漕ぎ手はあわてて櫓を放り出すと床にはいつくばった。釣り船の乗員が、いくら身を縮めても、隠れようがない。ジャッカルは狙いをつけた。SPが空に向けて威嚇射撃をした。ジャカルが動じないのですぐに水平に撃ってきた。ジャッカルは、レバーを右足で操作しながら、スピードをランダムに変えていく。相手がねらいにくくなるようにするためだ。
そのとき船の上で立ち上がったひとがいた。
銀髪をひっつめにして、後ろで結わえていた。いくらかのほつれ毛が、海の風になびいていた。黄土色の地に茶色い花がたくさん刺繍されたワンピースを着ている。細い黒のベルトをしめている。背は前かがみになり、腕は痩せ細り、関節のところだけがふとまっていた。支えるもののない船の上で、よろよろよたよたと、頼りなく前後左右に揺れ動いた。たくさんの腕が下から延びて、その人を坐らせようとしていた。その人はジャッカルをはったと見た。
その人は、揺れながら、痩せてしわの走った白い両腕を、ゆるゆると挙げた。とうせんぼをするように、腕を水平に上げて、ジャッカルを見つめながら、首を左右に振った。
ジャッカルは撃てない。
釣り船の傍らを過ぎてしまうと、ジャッカルは足でハンドルを操作して、再び直角近くに方向転換し、接近していく。
その人は、向かってくるジャッカルのほうに、自らも向きを変えようとして、転倒した。船内に叫び声が上がった。その人は、たくさんの腕を振り払って立ち上がると、仁王立ちになって、ジャッカルに向かって首を左右に振った。
ジャッカルは撃てない。
そのとき、さらに立ち上がったひとがいた。ジャッカルのターゲットだった。その人は、その女性を背に負うようにして立ちはだかった。前に出ようとする女性を、その人はさえぎりかばった。自分の胸をジャッカルに向けて敢然と突き出した。二人はもみ合いになった。
ジャッカルは撃てない。
二人はもみ合ったまま倒れた。いくつもの金切り声が上がった。



