ジャッカル21
袋田たちの乗ったヘリコプターは、横須賀を過ぎて三浦半島上空にさしかかっていた。前方には相模湾が広がり、その向こうに青々と輝く伊豆半島が横たわっていた。前方右手には、漏斗を伏せたような富士山が見えた。左側の山腹は、西日を受けて、焼けた鉄のように赤く輝いていた。正面から右側の稜線にかけては、早くも影がさし、濃い群青色に染まっていた。箱根、丹沢の山々は、濃い緑の雑木林で覆われている。その手前を車が走る。電車が通る。新幹線が、串刺しするようにトンネルの中に滑り込んだ。
ヘリコプターは、小型の四人乗りだ。天井の高い四ドアの乗用車といった感じだ。高いといっても、首を折り曲げればやっと立てるほどであるが。
前部座席の右側に、操縦士が坐っている。四十歳の警視庁専属のパイロットだ。後部座席の右側に袋田、左側に江刺がいる。シートベルトを締めて、命綱をつけている。赤黒二つのバッグは二人の間に陣取っていた。
袋田の無線には、警電以外にも様々な連絡が入り続けていた。携帯はもちろん通じない。
総監からは、俺が間違っていた、許してくれ、という侘びの文句に続いて、ここ一週間、陛下は毎日釣り船で海に出られている、投網で魚を捕ったり、海藻の採集をなさる、今日は特に皇后様も同乗なさっている、相模湾の東岸からそう離れていない地点にいらっしゃるはずだ、船は木造で全長七メートル、エンジンはついていない、と伝えてきた。
神奈川県警からは、警視庁経由ではなく、直接に連絡が入り、海岸線は封鎖した、射撃手たちを乗せた水上ランチがもうすぐ出動する、ヘリコプターも三機出動する、とのことだった。
警察庁からも連絡があり、海上自衛隊の出動を検討中、と言ってきた。
どいつもこいつも後手に回りやがって、と袋田は歯噛みした。袋田自身も含めて、この一週間、誰もジャッカルのスピードについていけなかった。今日など、その典型だった。ジャッカルは、都心から十数分で葉山まできてしまった。その神出鬼没、大胆不敵振りも人々の想像を超えたものだった。捜査陣全員が、自分の頭の悪さを思い知らされた。ジャッカルの冷酷非情もまた異次元のものだった。電気自動車強奪事件までに、わかっているだけで七人殺し、ついさっきも、二人即死させている。蚊を打つように人を殺す。袋田は、いまこの土壇場にきて、またもや自分がドジる恐怖におびえていた。



