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ジャッカル21

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村役場前で降りた。九条が、眠っている赤ん坊を抱えて、後に続いた。
役場に入って、アレギーノフの家はどこかと尋ねた。喪に服している家のはずだと付け加えた。
その家は、ひまわり畑の真ん中の、小高い丘の上にあった。壁はレンガと漆喰で出来ているが、屋根は日本のわらぶき屋根と寸分違わなかった。母屋のほかに畜舎と物置があった。案内してくれた役場の男が、ドアを隔てて話をした。
やがて、五十近い太った女が出てきた。憤怒の表情をしていた。ミハイルが日本人に殺された、とでもいううわさが流れているのだろうか。白犬が彼女の脚にまとわりついた。シェリ,シェリ、と女は大声で犬に向かって叫んだ。
彼女の後について、十人ほどが家から出てきた。二、三歳の子供から二十代半ばぐらいの青年まで、様々だった。いかにも新婚早々らしいすらりとした若い女も混じっていた。ただ、壮年の男はいなかった。働きに出ているのかもしれないし、その太った女が寡婦であるのかもしれなかった。
松村は、その女の憎悪にゆがんだ顔を見ながら言った。九条が通訳した。
「ミハイル・ボルフェノヴィッチ・アレギーノフ氏の息子さまをお届けに参りました」
その女は、しばらくの間、呆然と突っ立ったままだった。九条が赤ん坊をその女に押し付けた。女はその赤ん坊をまじまじと見た。やがて表情が和らぎ、口元に笑みが浮かんだ。女はしゃべり始めた。九条が同時通訳する。
「おお、ミハイルじゃないか。わたしゃ、お前をまた生んでしまったよ。もう一回やりなおすつもりなのかい? かあさんはもうおばあさんだよ? まったく手のかかるミーシャだこと!」
女は赤ん坊を両手で差し上げた。
「やっぱり、かあさんのところに、帰って来てくれたんだね! ごらん、ここがお前の故郷だよ!」
赤ん坊は、果てなく広がる金色のひまわり畑の真ん中で、ケッケッケッケッ、と声をあげて笑った。
  
二〇〇五年、七月十三日、午後三時三十分、東京

仕方がない、パトカーを呼ぼうか、と思った袋田の前に、やっとタクシーがとまった。酒場を出た直後から、袋田は携帯と警察無線を使って矢継ぎ早に電話をかけ続けた。一斉同報通信は、内容が内容なだけに控えた。たいていは相手にされなかったので、袋田はかんかんに怒っていた。特に総監がひどかった。
「そうであるという根拠は?」
「あのう、ロシア人の女が……」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦