ジャッカル21
「冷静に検討すればするほど、通信者が冷静さを欠いているのがはっきりしてきますな。わが国の現首相が、ロシアに対してなにかおかしなことをしましたっけ? アフガンやグルジアならまだ分かります、中国でもわからんことはない。しかし、ロシアが当方にどんな文句のつけようがあるんですか。北方領土問題がテロの理由になりますか? 漁業問題? 領海侵犯? 関税? パイプライン建設問題? いずれもテロとは無関係だ。理由がまったくみつからない。アメリカ大統領を暗殺するのなら話は分かる。理由はゴマンとある。実質的にも象徴的にも意味ある行為です。しかし、日本のように官僚制が永久固定されている国では、首相を暗殺しても意味がない。すげ替え用の首はいくらでもあります。もともといてもいなくても……、まあ、とにかく、この件は、通信者の個人的な問題、特に精神状態の問題に帰着すると思います。当人はいくら真剣だろうと、こっちから見れば狂人ですな」
長柄の発言中ずっと古賀は首を縦に振り続けていた。重光は、この腰ぎんちゃくの、金魚のうんこめが、と長年胡散臭く思ってきた古賀を睨みつけた。古賀は長柄の後を受けて話を敷衍した。
「プーチンがテロを仕掛ける相手は二種類しかありません。第一は、プーチン自身をテロってやろうとしているテロリストです。第二は、プーチン政権を批判しているジャーナリストです。公的機関にではなく、末端の小集団やセクトに所属する、比較的個人行動をとる者たちです。プーチンは国にテロは仕掛けません。国際的にも九・一一以後、先進諸国は国を対象としたテロ行為を蛇蝎視しています。このような情勢下でロシアが我が国の首相をターゲットにテロリストを送り込むことなぞありえない。狂気の沙汰です。じゃ、どこに狂気があるのか? 通信者にしかありえませんね。文字も文章も乱れきっています。この人物は、急に精神に恐慌をきたしたのでしょう。この男こそがひとりで日本にのこのこやってくるかもしれないですよ、この男こそがジャッカルなんですよ、罪名は公務執行妨害でも何でもいいから、とっ捕まえて頭から冷や水でもかけてやることですな、ハハハ」