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ジャッカル21

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言い終えると妃殿下はすっくと立ち上がられた。会場は拍手で沸いた。フルシチョフたちは、ひな壇を降りたところで立ち止まって拍手した。随行団員は松村を先頭に退場を始めた。列の後尾に続く女官達が、ハンドバックを開けて、千代紙で折った鶴を取り出した。腹の穴に唇をあてて息を吹き込むと、鶴は立体となり翼をひろげる。たちまち女たちが殺到して手をのばした。はしゃぎながら手のひらの上で弄ぶ。中には宙に投げ上げる者もいる。男たちも恥ずかしそうに手をのばす。フルシチョフは駆け寄ってひとつひったくると、禿げ頭にのせて、両腕をばたつかせた。やがてゆっくりと妃殿下がひな壇からお降りになった。
妃殿下は、左右に会釈をなさりながら、ドアに近づいていらっしゃった。ミハイルは動揺の極に達していた。もう一方のドアの前にいる同僚が、いかにも心配そうな顔をしてミハイルを見ていた。最後の女官がドアの向こうに去った。
ミハイルは正面を見続けている。視野の縁に妃殿下の姿が映る。妃殿下も正面を見つめていらっしゃる。ふたりの目線は直交したままだ。
妃殿下の横顔がミハイルのまん前を過ぎていく。過ぎていく。今過ぎて行く。
そのとき、妃殿下のくちびるが、かすかに動いた。

「……サヨナラ」

一九六四年、十二月二十三日、午後五時四十分

皇太子殿下の誕生パーティーは、東宮御所鳳凰の間でとりおこなわれた。そこはちょっとした体育館ほどの広さがある。内壁と天井は白金で張りめぐらされ、重量百キロの大シャンデリアが六個、UFOのように大広間を俯瞰していた。横山大観描くところの、縦2・5メートル、横8メートルの赤富士屏風を背にして、皇太子殿下と皇族方が着席された。男性はモーニング、女性はローブデコルテをお召しになっている。妃殿下は香港風邪のために欠席なさった。続いて、列席者百三十二名も着席した。
正面の皇族席と直角に三列のテーブルが並んでいる。中央の列だけがやや短くなっており、殿下の前にちょっとしたステージが作ってあった。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦