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ジャッカル21

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広間の正面にはピョートル大帝の鎮座していた玉座がしつらえてあった。この椅子に女性が坐るのは、なんとエカテリーナ女王以来だという。その右横には、幅広のモダンな肘掛け椅子がおいてある。ニキータ・フルシチョフ第一書記兼首相が着席する予定だった。大帝の椅子とモダンな椅子の間には通訳の坐るこじんまりした木製の椅子がある。その背後に、ソ連側の高官が坐るための椅子が十五脚ほどならべてある。それと対称に、正面左側には、日本側の随行団員たちが坐る椅子が、やはり十五脚ほどならべてある。そこ以外では、すでに五十人ほどの人々が、立ったままでざわめいていた。男はほとんどが軍服を着ていた。女は十人ほどで、全員が薄手の黒いワンピースを着ていた。右側のドアが開いて、フルシチョフを先頭に、政府高官が入ってきた。フルシチョフは、白いネクタイに白いタキシードという出で立ちで、満面に笑顔を浮かべている。全員が拍手した。フルシチョフは席の前に立ったまま拍手を返す。高官たちも坐らない。拍手が続いた。
やがて、フルシチョフが拍手をやめ、皆はそれに従った。広間の中央に道をあけるように、人々は左右に退いた。
ノックの音がした。ミハイルは重いドアを引いた。
まず、侍従長といったところの、年配の男性が、一礼して入ってきた。黒いモーニングを着ていた。再び拍手が始まった。その後に、いずれも中年の男性が十名、やはり全員モーニング姿で続いた。そのまた後に、銀色に輝く絹のローブデコルテを着た女性が五名続いた。おそらく女官だろう。ミハイルは、眼を皿のようにしてあの女を探したが、見つからなかった。よほど位が低いのだろう……
その時、拍手が急に高まった。フルシチョフは、ひな壇から降りて、ドアのほうに近寄ってきた。二重織りの薄桃色の絹地に、孔雀が三匹羽根を広げた絵柄のキモノを着て、金襴緞子の帯を締めた妃殿下が、今入ってこられたのだった。
銀粉をまぶした京草履をお履きになっていた。足には白足袋を履き、裾は床につくかつかないかまでにゆるやかに垂れていた。高々と結った丸髷に、ぶっちがえて斜めに刺した二本の珊瑚のかんざしが、シャンデリアに輝いていていた。手に持った白扇子をひと山ふた山と開いていって、ふいにパチリと乾いた音を立てて握りしめなさった。
左足から一歩踏み出された。
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦