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ジャッカル21

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「カントウガクセイセンシュケンジョシシングルスイチイ」
彼女はミハイルにとってはお経かラテン語のような日本語でつぶやいた。
「日本語は難しいのかい? ぼくはサヨナラ一語しか知らないな」
「それだけで十分よ。日本語なんかに近づかないほうがいいわよ。悪魔の言葉だって言われてるんだから。難しいどころじゃないわよ」
ミハイルは、靴下をポケットに入れると、靴を手に提げて立ち上がった。女もそうした。ミハイルは靴を返すと、さっきから目をつけていた池に、裸足のまま向かった。直径二十mほどの池の中心には、一辺二メートル位の彫刻の塊りがあり、まわりには、同心円状にベンチが連なっている。子供たちが池の中で水遊びをしていた。大人たちはベンチに坐って日光浴だ。二人も空いているベンチに腰かけた。これで、並んで腰掛ける回数が十回となった。坐ると、彫刻に面と向きあうことになる。その彫刻からは、四方に水が沸き出ていた。
「ねえ、あの気味の悪い彫刻、人間みたいだわ。四人の人が背中合わせに坐ってるのよね」
「人間じゃない。ボジャノイだ。ぼくの故郷にも、ボジャノイの伝説が残っている。川の魔物だ」
「よく見てくるわね」
女はそういいながら立ち上がると、スカートを膝の上まで捲り上げて、ざぶざぶ池の中へ入っていった。ミハイルも、あわててズボンの裾をまくると、後を追いかけた。
女は彫刻に頬がつくほど接近して、観察に余念がない。ミハイルも、こんな近くで見たことはなかった。人か動物か分からない生き物が、大なまずに跨っている。頭には水草をかぶり、奥目をつぶり、開いた口から水を垂れ流している。大きな腹を突き出し、水草の帯を巻いている。女ははしゃいでいた。
「あんた、日本にしかいないと思ってたのに、ロシアにもいたのね!」
「ボジャノイは日本にもいるのか?」
「そうよ。日本ではカッパっていうの」
女は大発見でもしたように、目を輝かせてミハイルを見た。
ミハイルは、いつまでもカッパから離れようとしない女を引っぺがすように促して池から出た。靴下で足を拭いて、素足に靴をはいた。靴下はポケットに丸めて突っ込んだ。女はまたもや真似をした。
遊歩道を歩きながら女がつぶやいた。
「いつまでもこうしていたいな」
ミハイルは、これは問題発言だ、と少しあわてた。
「仕事がつらいのかい?」
「つらくなんかないわ。自分の選んだ職業ですもの」
作品名:ジャッカル21 作家名:安西光彦