ジャッカル21
老婆の部屋とみなされる場所に着いた。扉には鉄製の呼び鈴がついていた。紐を引くと鳴るはずだ。女が手を伸ばしたので、ミハイルはあわてて制止した。ミハイルがつかんだ女の腕は、柔らかくて、うっすらと汗をかいていた。
午後三時三十分
二人は、夏の庭園の中のベンチに、並んで腰掛けていた。その前を夏休み中の学生や子供がぞろぞろ通る。綿のズボンやスカートをはいている者がほとんどだが、中にはジーンズをはいている者もいる。Tシャツの胸や背中には英語も書いてあるが、スペルの間違っているものが多い。巨大な欅が立ち並び、重そうに枝を垂らしていた。枝には日光を遮断するのに十分な量の葉がひしめいている。大理石の彫刻群の白い輝きが、樹木のこげ茶色と枝の薄緑にアクセントをつけていた。のたうつ裸体が瞬間冷凍されたようだった。遠くから、シャンペンの栓を抜くような、テニスボールを打つ音が聞こえてくる。
二人はソーニャの実家にも旧センナヤ広場にも行った。それから、グリュウバエートフ運河の水上バスに乗り、七つの橋をくぐって、夏の宮殿の真下の終点までやってきたのだった。
「あーあ、あれ、したいな」とその女がつぶやいたのでミハイルはびっくりした。
「ここ何週間もテニスをしてないの。あそこで出来ないかなあ」
午後三時五十分
テニスコートの受付で靴も借りて、二人はコートに立った。女の足のサイズは24センチだった。ミハイルは29センチだ。
「みっともないわね。日本じゃ、馬鹿の大足っていうわ」
靴をはきながら女は言った。ミハイルは言い返した。
「ここじゃ、大足は地球をつかむって言うぜ」
女は敏捷で足が速かった。めったにネットには出てこないが、ストロークは深く確実で、前後左右にミハイルを翻弄した。球足は速くないが、よくスピンが効いたボールを打った。組み立てがいかにも頭脳的だった。さすがに、ミハイルの豪速球サーブは見送ることがたびたびあった。しかしミハイルは相手にならず、6―2で負けてしまった。
二人はコート際のベンチに坐った。ミハイルは靴と靴下を脱いだ。足の裏の乾いたクレーがくすぐったかった。女も裸足になった。くっつけて投げ出された素足は白くて幅が狭い。
「ぼくはこれでも、仲間内の試合では負けたことがないんだけどね。君はプロかい?」
「ちがうわ」
「どのくらいのレベルなんだろうね」



